9月22日の明治安田生命J1リーグ第32節で、川崎フロンターレは鹿島アントラーズにアウェーで逆転勝利を収めた。貴重な同点ゴールを演出したのが脇坂泰斗だ。交代で入ったばかりの山村和也に、左からのFKで合わせるピンポイントキックが冴えた。その極意とは?

上写真=脇坂泰斗のキックが研ぎ澄まされてきた。鹿島戦では職人技のFKで同点弾をアシスト(写真◎J.LEAGUE)

「決めてください」

 脇坂泰斗のキックが冴えに冴えている。

 AFCチャンピオンズリーグ蔚山現代戦で敗退し、韓国から失意の帰国を遂げた直後のJ1第29節徳島ヴォルティス戦で1得点1アシスト、続く第32節の鹿島アントラーズ戦では1アシストを記録した。

 9月18日の徳島戦のゴールは1-1の同点から勝ち越す一発。パスで中央を崩してから、最後に正対するDFの外側を巻くようにしてコースを突いたコントロールショットが美しかった。勝利を引き寄せる知念慶のヘディングシュートをアシストしたのは右CKから。知念は「泰斗くんはいつも練習であそこにいいボールを蹴ってくれるから」と信頼してシュートスポットに入っていった。

 そして、9月22日の鹿島戦である。アウェーで0-1のまま、80分すぎまで進む。左サイドで宮城天が倒されて得たFK。ボールをセットすると、川崎Fに交代が告げられる。山村和也が入ってきた。

「あ、ヤマくん来た、と思って。でもそこで少し間ができたので、キックに集中しなきゃなと思いました」

 山村がゴール前に入っていく。その動きを注視した。

「ヤマくんがどこの位置に入るかなと見ていたんです。大外かと思ったんですけど、(手前から)2枚目か3枚目かに入って、そのあとに(谷口)彰悟さんとかが入っていったので、ファーに蹴りすぎるより前で触れるように置く場所を決めました」

 脇坂は自分が持っている多くの種類のキックから、「置く」ことを選んだ。

「キックは感覚的なところが大きくて、そこは難しいんですけど大事にしています。普段、何回も蹴っているのに日によって感覚が違いますし、だからこそ自信を持って蹴ることが大事かなと。迷いがあると影響が出てしまうので」

 前節で蹴ったFKのことを思い出し、駆け引きの材料に利用した。

「徳島戦で一本、同じような場所から直接狙ったんですけど、駆け引きのところでその情報がスカウティングで向こうの頭に入っているかと思っていて、スペースに落とせば出づらいだろうという考えがありました」

 ボールは吸い寄せられるように山村へと飛んでいき、競り合うGKとDFより先にヘッドで触って同点ゴールが生まれた。山村が交代直後のファーストプレー、ファーストタッチで決めた劇的な一発。GKが飛び出したくなる速度で、それよりも遅くなるとDFに触られてしまって、速すぎると味方が触れない。絶妙のピンポイントキック。

「失速しないようにインパクトを大事にして、目的の到達地点に蹴り込む、という感じですね」

 セットプレーではチームとして誰がどこに入っていくかが決まっている。そこに「蹴り込む」のが脇坂の仕事だ。だからいつもFKを蹴るときは「決めてください」と念じる。

 セットプレーではキッカーの責任が大きい、と自覚する。韓国から戻って2試合続けてセットプレーでゴールを生み、自らのフィニッシュでも素晴らしい得点を挙げている。背番号8のキックが冴えれば冴えるほど、J1連覇に近づいていく。