アウェー連戦の難しい状況を、川崎フロンターレはなんとか突破した。8月28日の明治安田生命J1リーグ第27節で北海道コンサドーレ札幌に2-0で勝利。今季初黒星を喫した直後の戦いを「勢い」で突破した。次の相手は浦和レッズ。JリーグYBCルヴァンカップ準々決勝だ。

上写真=札幌戦では勝利が絶対に必要だった。鬼木達監督もジェジエウとともにこの笑顔(写真◎J.LEAGUE)

「みんなを育てていくのが自分の役割」

 今度は、負けなかった。

 2つの引き分けのあと、今季初黒星。柏、広島、福岡と移動したところで初めて負けて、そのまま札幌入り。8月28日のJ1第27節北海道コンサドーレ札幌戦は、川崎フロンターレの今後を占うとても重要なゲームになった。

 それを、小林悠の1得点1アシストの活躍などで2-0の勝利で終えたのだ。「こういうときに結果を出すのが小林悠」と鬼木達監督から名言も生まれたが、主力の移籍、負傷者の続出、過密日程という三重苦を乗り越えて連敗しなかったことは本当に大きい。

 というのも、鬼木監督にとっては優勝へ突き進むための勝ち点3であるのと同時に、「育ての親」として選手を引っ張り上げるための勝利が必要だったからだ。

 昨季からしか知らない選手にとってみれば、勝つのが当たり前のチームで、黒星の免疫がついていない。それは悪いことばかりではないが、敗戦にどう向き合ってもう一度前に進んでいくかを経験できていないことにもなる。

「自分たちが他と違うのは、クラブとしても人を伸ばしてほしいと常々言われているところだと思っています」

 トップチームの監督は勝利が何より求められるが、同時に勝利をもたらすことのできる人間を育てていくという難解なミッションが与えられている。だが、鬼木監督はそれを楽しんでいる。

「もちろん時間はかかるので、時間が許される場合とそうではない場合がありますが、選手を見極めながら、外国籍選手も含めて育ててほしいと言われています。みんなを育てていくのが自分の役割だと思って過ごしているんです」

 リバウンドメンタリティーを意識させることも、育てる糧になる。札幌戦は相手に主導権を握られる苦しい展開だったが、やや不格好でも、精度を欠く危険性を承知の上で「勢い」を重視した。

「あのメンバーで何が一番パワーが出るかというと、やはり勢いを大事にしたいと考えました。ボールを取ったあととかに正確性を欠いても前に出ていく、前に出していく、そういう勢いでやらなければいけないと思っていたので、よくやってくれたという印象があります」

 リスクとメリットのせめぎ合いは、吉と出た。

 それでも、決めるべきところではハイレベルの技術がモノを言うのはフロンターレらしい。ペナルティーエリアの狭いスペースの中で相手からボールを遠ざけながらターンしてゴールにパスをした小林のフィニッシュ、相手との駆け引きでゴール前のスペースをわざと開けておいてから小林の折り返しを呼び込んで決めた遠野大弥の一連のアクションと、どちらも真骨頂だった。

 鬼木監督の言う「我慢のとき」はこの勝利によって突破できたのかどうか。それは、次の難しい戦い、浦和レッズとのルヴァンカップ準々決勝の2試合で問われることになる。