名古屋グランパスのマッシモ・フィッカデンティ監督が投げかけたのは、アスリートとワクチン接種の問題だった。8月21日のオンライン会見でその難しさについて経験をもとに提言。だが、それを乗り越えてすべてが「整った」と自信を見せている。

上写真=フィッカデンティ監督も「何か迷いがあったわけではない」とチームの意欲に疑いを持ってはいない(写真◎J.LEAGUE)

「ほぼ全員の選手が接種して発熱も」

 ワクチン接種とアスリートのコンディション調整をめぐる問題は難しい。アスリートに限らずすべての人が早期接種が求められる一方で、副反応の問題があって、個人差はあるものの特にアスリートはコンディションを崩してプレーがままならない可能性をはらむ。

 Jリーガーの場合、試合までに時間があればまだ影響を最小限に食い止めることはできるかもしれない。だが、例えば中2日、中3日で過密日程が続く名古屋グランパスには切実な問題になる。マッシモ・フィッカデンティ監督もこの問題の難しさを明かす。

「いまのタイミングで何事もなかったので言えますが、ワクチンを打つ権利をみんな持っていて希望者が接種しました。Jリーグからも積極的な接種を求められていましたが、試合の日程と接種の日程についての考慮はありませんでした。接種していない選手を使えばいい、と言われるかもしれませんが、ほぼ全員の選手が接種して発熱もありました。試合の日までに回復した選手になるべく出てもらいましたが、ギリギリの状態で、実際に出られない選手もいました。その状況の中で苦しいけれど戦いました。普通の1年を戦っていないことはわかっていただきたいし、サッカーの面から見て説明しなければいけないこともあれば、勝利を目指しながらもどこかにそうした原因はあるという試合がいくつかあることを理解してもらえれば、選手も助かると思います」

 プライバシーの観点もあり詳細を明かせる問題でもないが、それがちょうど、中断明けに迎えた横浜FCと横浜F・マリノスとのアウェー連戦のあたりに関連したという。結果はどちらも0-2の黒星となったが、影響は隠し切れないだろう。

 AFCチャンピオンズリーグに絡んだ隔離生活と超過密日程を終え、今回のワクチンに関わる時期も超えて、J1第24節の湘南ベルマーレ戦、天皇杯ラウンド16のヴィッセル神戸戦でいずれも1-0の勝利をもぎ取った。フィッカデンティ監督は「整ってきた」とチームの状況を前向きにとらえている。

「何か迷いがあったわけではなく、自信を持って進んでいた道をそのまま進みたかったけれど、少し立ち止まっていた、という感覚です。引き続きやるべきことをできている状態にあるので、苦しんでいたというよりいろいろなものが整ってきて、取り組みができるという感覚です」

 湘南戦ではキム・ミンテが、神戸戦ではヤクブ・シュヴィルツォクが決勝ゴールを挙げている。この夏に加入してきたばかりの2人の移籍後初ゴールという記念の一発で連勝したから、勢いもさらに増す。立ち止まることを強いられていた足を再び動かすには十分だ。

 次節はアビスパ福岡との対戦だ。開幕戦で戦って2-1の勝利を収めているが、そこからいろいろなことが変わった。

「開幕戦でいなかった選手が何人か合流して、メンバーが変わっています。いい時期も結果の出ない時期もあって、J1でいろいろなことを経験した中でいまどう戦うべきかを見極めてきていると感じています。警戒すべきところは警戒し、準備して臨みたいと思います」

 福岡はこの2試合でドラマティックなエンディングを続けている。サンフッレッチェ広島に1−1で追いつき、セレッソ大阪には2−1で勝利を収めたその最後のゴールが、いずれもアディショナルタイムに決めたものなのだ。だが、最後まであきらめない戦いなら、名古屋の真骨頂でもある。