川崎フロンターレの守護神、チョン・ソンリョンがまたもやヒーローになった。7月21日の天皇杯3回戦でジェフユナイテッド千葉にPK戦まで追い詰められたが、5人目を見事にストップ。勝ち抜きを決めた。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも難しい初戦の大邸FC戦でPKを止めていて、大黒柱の風格をここでも見せつけた。

上写真=チョン・ソンリョンがPKストップで大きな存在感を見せつけた(写真◎J.LEAGUE)

■2021年7月21日 天皇杯3回戦(@フクアリ/観衆4,553人)
川崎F 1-1(PK4-3)千葉
得点者:(川)家長昭博
    (千)見木友哉

「同じ方向に跳んでいましたね」

 PK戦。チョン・ソンリョンの背中には川崎フロンターレのサポーターもゴールを守るように陣取っている。先行のジェフユナイテッド千葉は4人が蹴って3人目が失敗、川崎Fは4人全員が決めていた。

 チョン・ソンリョンはすべて左に跳んだ。千葉の決めた3人もすべてその逆に蹴り込んできた。

 千葉の5人目、熊谷アンドリューのキックに、跳んだのはまたも左だった。そこに、ボールが吸い込まれるようにやってくる。両手ではじくだけでよかった。3回戦突破!

「先に動かないようにして、最後は感覚というところで跳んでいるんです。向こうも気づいたら同じ方向に蹴っていました。自分も同じ方向に跳んでいましたね」

 7月21日の天皇杯3回戦でジェフユナイテッド千葉と対戦し、先制されながら追いついてそのまま延長戦でもスコアは動かず、PK戦に突入していた。PKといえば、6月26日のACLグループステージ初戦で大邸FC(韓国)。開始早々の8分に先制され、29分にはPKの大ピンチを迎えた。しかし、これを右に跳んでストップするビッグセーブ。このときはスカウティング映像を事前に確認してキッカーの癖を研究、右側を空けておいてそこに蹴るように誘い込んだ分析の勝利だった。しかし今回は「感覚」で呼び込んだストップだった。

「PKはもちろんですけれど、技術的なところでどんどんあの年齢(36歳)で伸びているんですよね。まだまだうまくなっていくんだ、とこの1年は驚きでした。PKもうまくなっていますから、もちろんPK戦までやりたくはありませんが、ソンリョンがいるから、という自信はありますね」

 鬼木達監督も絶大な信頼を寄せるのだ。あくまでチョン・ソンリョン自身は「みんなで」を強調するのだが。

「僕の個人の活躍より、みんな気持ちが入っていて延長に入ってもPK戦でも気持ちが一つになって勝てたのではないかと思います」

 その連帯感もチームの礎になっているだろう。ACLで苦しい中2日の6連戦を全勝で勝ちきり、帰国後はJ1第18節清水エスパルス戦とこの千葉戦を戦い、その間には厳しい行動制限下にありながら、スタッフ2人と選手1人に新型コロナウイルス陽性診断が出た。チョン・ソンリョンはそれを気持ちで乗り切ったと振り返るのだが、並大抵のことではなかった。

 それを可能にしたのは、特別な何かではない。

「昨年から取り組んできて、監督が求めるものを選手は理解していますし、切り替えの部分やハードワークが浸透していると思います。最初から最後まで最善を尽くして、勝ちたい気持ち、負けない気持ちを持って戦っています」

 2月からおよそ5カ月でスーパーカップ1試合、リーグ戦22試合、ACL6試合、天皇杯2試合の31試合の公式戦を無敗で駆け抜けた。これは一つの達成だ。ようやく迎えた中断期間、チョン・ソンリョンがまずしたいことはなんだろう。

「寝たいですね(笑)」

 心ゆくまでぐっすり眠って、次なる戦いに挑んでもらいたい。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE