J1王者、川崎フロンターレへの来季加入が内定している桐蔭横浜大のGK早坂勇希。小学校5年生からアカデミーで育ち、U-15、U-18を経て大学に進学。チームに戻れる保障はなかったが、心身とも成長して実力で契約を勝ち取った。スカウトの心をつかんだものとは何だったのか。

上写真=(写真◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)

プレーには人間性が出る。もっと人間性を磨きたい

 毎年のようにJクラブにタレントを供給する関東大学リーグ、関西学生リーグには川崎Fのアカデミー育ちの選手が無数にプレーしている。三笘薫(筑波大)、脇坂泰斗(阪南大)の成功例はあるが、古巣に戻れるのはほんのひと握りだ。向島建スカウトは、厳しい表情で現状について語る。

「いまのフロンターレは、各ポジションともレベルが相当高くなっています。大卒は即戦力候補なので、できるだけ早くチームにフィットし、試合に出場できるような選手を取らないといけません」

 アカデミー出身者も例外ではなく、獲得のハードルが下がることはない。その基準を見事にクリアした一人が、桐蔭横浜大の守護神だ。次から次にピンチを防ぎ、試合の流れを引き寄せるシュートストップは目を見張る。2年前、2年生で出場していた大学日本一を決めるインカレで大きなインパクトを残し、スカウトのお眼鏡にかなった。

「とくに決勝のパフォーマンスは素晴らしかったです。ビッグセーブの連続でした。結果は準優勝でしたが、個人的には大会MVP(当時明治大、現FC東京の蓮川壮大が獲得)でもいいかなと思ったくらいです。絶体絶命のピンチを救うシュートストップは何よりも魅力でしょうね」

 早坂本人に2019年インカレ決勝の活躍について、話を振ると、少し照れ笑いを浮かべながら首を横に振った。

「あれは僕だけの力ではありません。ベンチに座っていた控えキーパー(児玉潤)の4年生に支えてもらっていたんです。先輩は悔しい思いをぐっと押し殺し、いつも『やってこいよ』と僕を気持ちよく送り出してくれました。その言葉にどれだけ救われたか。競争がある中でも、GKならではのチームワークって、あるんだなとあらためて思いました。そこが桐蔭の良さ。人の分まで頑張ろうと思えたことが、自分の成長につながっていると思います」

 セービングには絶対の自信を持っている。お手本にしているのは、ゴールマウスにどっしりと構えるフロンターレのチョン・ソンリョン。大学に入ってからも、ずっと磨きをかけてきた。

「シュートストップはキーパーの醍醐味です。チームがリズムに乗っているとき、相手に流れがいきそうなときに、ピンチを防ぐことは試合のなかですごく大事。僕はセービングひとつでチームを鼓舞できると思っています」

 早坂の持ち味はそれだけではない。1本のパスで試合の流れも変えることもできる。キック技術の高さも目を引く。状況に応じて、地をはうような低い弾道でぴたりと味方の足元に届ける。バックパスの処理でスムーズにこなし、ビルドアップにも参加できる。

 残りの大学生活も半年足らず。GKの技術向上だけではなく、桐蔭横浜大の安武亨監督から口酸っぱく言われていることに力を注いでいく。

「プレーには人間性が出ます。人間性をもっと磨いていきたいです」

 指導者はもちろん、仲間への思いも忘れない。そして、大学の会場まで足を運んでフロンターレのファン・サポーターへの感謝の思いも心に留めている。さらなる精神面の成長を遂げて、J1王者の門を叩くつもりだ。

◆早坂勇希(はやさか・ゆうき)
・所属:桐蔭横浜大
・ポジション:GK
・生年月日:1999年5月22日
・身長/体重:184cm/78kg

取材◎杉園昌之 写真◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子