5月26日の明治安田生命J1リーグ第16節で、アビスパ福岡を迎えた横浜FCの中に特別な思いを持ってピッチに立った選手がいた。高木友也だ。なかなか先発の座をつかめずに抱えていたもやもやを払拭するような攻撃が、福岡を困らせた。先制ゴールのアシストも記録し、思いを結果に変えてみせた。

上写真=見事なアシストに仲間たちから手洗い祝福を受けた。高木友也は特別な思いでこの試合に臨んだ(写真◎J.LEAGUE)

■2021年5月26日 明治安田生命J1リーグ第16節(@ニッパツ/観衆3,311人)
横浜FC 1-1 福岡
得点:(横)クレーベ
   (福)ブルーノ・メンデス

「誰よりも走って勝たせることだけを考えて」

 悔しい思いが、高木友也の足を突き動かし続けた。

「個人的な話ですけど、リーグ戦では2カ月、スタメンがなくて、チームが苦しくて勝てない中、湘南戦で初勝利を喜ぶ姿を自分はスタンドで見ることしかできなかったのが悔しいんです」

 高ぶる気持ちを思いきりぶつけるつもりだった。

「今日、スタメンと言われて、誰よりも走って数字を残して勝たせることだけを考えて試合に臨みました」

 序盤から遠慮なく前へ前へと仕掛け続けて、本当に「数字」を残してみせた。26分の先制アシストだ。

 手塚康平からのパスで左奥に出ると、寄せてきたジョルディ・クルークスに勝負を挑んだ。一度はその足に引っかかるが、ボールは自分の方にこぼれてきた。その時に顔を上げると、見えた。

「うまくかわして顔を上げた瞬間、ニアにスペースが見えたんです。クレーベに入ってこいという意味を込めて速いクロスを入れたら、(クレーべが)入ってきてくれてうまく合いましたね」

 クレーべはしっかりとメッセージを受け取った。2人のセンターバックの間に入って、インパクトの瞬間に首を振ってヘディングシュート、コースを変えてゴール右にきれいに流し込んだ。

 早川知伸監督からは「攻撃では仕掛けていってクレーベへのクロスで点を取ってこい」と言われていたというから、まさに監督のミッションを遂行する最高の手柄だった。高木の思いを知っていた仲間たちは、ゴールを挙げたクレーべよりもクロスを送った高木のところに集まって、頭をばちばちと叩く手荒い祝福をたっぷり浴びせた。

「全部痛かったです、誰にやられたか分からない」

 痛いけれど、笑顔になる。

「自由な時間を与えないように」

 貢献したのは攻撃だけだったわけではない。

 早川監督は試合の前から、福岡のサイドアタック、特に右から攻め上がるサイドバックのエミル・サロモンソンに高度なアラートを発していた。粘り強くスタミナのある高木を起用したのは、サロモンソン封じの意味もあるだろう。こちらから押し込んでしまえば、向こうは攻めに出てくることは難しくなる。

「サロモンソンは高い位置で受けられると危ないので、ビルドアップの段階で牽制をかけて自由な時間を与えないようにすることを、中塩(大貴)くんと話していました」

 福岡がいつものようにテンポよく攻められなかった理由の一つは、横浜FCが高木を中心にしてサロモンソンを包囲することができていたからだ。

「前半はほぼ少ないチャンスしか与えていなかったのでよかったです。でも、後半に攻められ始めてサロモンソン選手や(サイドハーフの)クルークス選手にクロスを上げられたので、90分を通して完封できるようにならなければ」

 後半に同点に追いつかれただけに、今季リーグ戦で2つ目のアシストも手放しで喜ぶわけにはいかなくなった。また別の悔しさが残ることになったが、それが次へのブーストになるはずだ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE