4月25日の明治安田生命J1リーグ第11節で、浦和レッズを先導した一人は西大伍だろう。移籍後初となる鮮やかな先制ゴールはもちろんだが、逆転されたあとも精神的支柱となって仲間を奮い立たせた。結果は、逆転勝利。リカルド・ロドリゲス監督も大きな信頼を寄せている。

上写真=西大伍が開始3分に決めた移籍後初ゴールが先制点。最高の笑顔を見せた(写真◎J.LEAGUE)

■2021年4月25日 明治安田生命J1リーグ第11節(@埼玉/観衆9,270人)
浦和 3-2 大分
得点:(浦)西大伍、槙野智章、田中達也
   (大)町田也真人2

「ちょっと時間が早すぎた」

 西大伍の「浦和レッズ初ゴール」は、まさに新しいスタイルの象徴的な一撃だった。

 開始3分のことだった。左サイドの低い位置でボールを回しているときに、西はゆっくり中央に寄っていった。小泉佳穂が前線へミドルパスを送ったタイミングで、そのままゴール方向へ。杉本健勇が落としたボールを山中亮輔が収めると、西が少しスピードを上げて中央でボールを呼び込んだ。山中からの浮き球のパスをそのまま蹴り込んでゴール左に流し込む、あっという間の先制ゴール。

 というわけで、FWが落としたボールを受けたのが左サイドバックで、そのパスからペナルティーエリアの中に入って中央で決めたのが右サイドバック。基本のポジションにしばられずに、全員が正しいポジションを取って試合を支配していくという、リカルド・ロドリゲス監督のフィロソフィーが具現化したゴールだった。

「ちょっと時間が早すぎたし、あっさりしていたので」と、移籍後初ゴールという記念の一発であっても、いつも通りに淡々と振り返るのは西らしい。サイドバックの2人で決めるまでの組み立てのことも、「セレッソ戦の反省というか、より良くするために、僕らのポジションを攻撃的にしようと思っていました。でも、あの点のときぐらいであとはあまりなかったので、もう少し考えます」と改善の余地を語る。

 インサイドに立ってボールに関与した前半だったが、先制後は「緩んだかどうか分からないけれど、反応が遅かったですね」とチーム全体を見ていた。予測や連動の動きが重たくなって、前半のうちに逆転されもした。だから、後半はアウトサイドでのプレーも組み込むように工夫したという。

「最初はより中にいたんですけど、ちょっと全体的な動きを出したかったので、ポジションを変えながら中に行ったり外に行ったりして動こうと思っていました」

 後半に流れを取り戻すために入ったり開いたりとポジションを変え、スペースをいろいろなところに作り出す作業だ。その甲斐あってか、後半は支配する時間が長くなり、ついには逆転に成功するのだ。一度ひっくり返されても、もう一度持ち直すことができたのは収穫だろう。

「動じない僕がいるからですね」

 表情を変えないままそんなふうに「分析」するものだから、本気なのか冗談なのか測りかねるところではあるが、どちらであっても、動じない西がいたからこそあきらめなかったのは確かだ。小泉佳穂は、焦れずにやり続けようと仲間に声をかけた西の言葉が重要だったと振り返っている。

 リカルド・ロドリゲス監督もすっかり信頼しきっている。

「彼は本当にうまく回すのに重要な存在です。回す、というのは、ボールを動かしたりビルドアップにかかわったり、スペースを見る力もあってゴール前にも入っていけるということ。プレーの流れの理解力があって先を見る力が、チームにいい影響を与えています」

 これで5試合連続先発出場で、その間、4勝1敗。チームを上昇気流に乗せる存在だ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE