上写真=川崎Fへの入団が内定している松井蓮之(写真提供:関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)
フロンターレをイメージしてプレー
川崎フロンターレから松井蓮之の加入内定が発表されたのは2月25日だった。誰よりも驚いたのは、法政大3年生の本人である。
「話は聞いていましたが、正式なオファーが来るとは思っていませんでした」
昨年10月、法政大の長山一也監督から「川崎Fが見てくれているぞ」と聞いたときも半信半疑だった。「自分はフロンターレのサッカーに合うプレースタイルではないと思っていたので」。タイプは技巧派とは正反対。持ち味は力強いボール奪取と豊富な運動量だろう。目を引くのは、178cm、73kgのがっちりした体を生かした球際での強さ。パスワークや技術力に目を向ければ、お世辞にもいまの川崎Fで活躍できるイメージは湧きにくい。
デンソーカップの会場に詰めかけた他クラブのスカウト陣も実力は認めつつも、フロンターレのカラーと照らしたときに首をひねる関係者は少なくなかった。ではなぜ、攻撃サッカーでリーグを席巻した王者が迎え入れたのかーー。
松井が法政大でレギュラーをつかんだのは3年生になってからだ。矢板中央高時代に全国高校サッカー選手権に出場し、その名は知られていたが、関東大学リーグで活躍するまでには時間がかかった。川崎Fの向島建スカウトがチェックしたのも、昨年7月の大学リーグである。
「ようやく出てきたな、という感じでした。それから2カ月後にまた見ると、すごく伸びていたんです。立ち姿が良くて、雰囲気がありました。体のサイズ感は魅力だったし、ボールを奪う力もある。うまいとは言えないけど、以前よりも足元の技術は良くなり、スムーズにボールを動かせていました。これは成長していけば、もっと面白くなるなって思いました」
法政大の長山監督には、気にして松井を見ていることを伝えた。当然、本人の耳に入った。それからである。一段と成長速度が上がった。松井はフロンターレを意識し、攻撃力の向上に取り組んでいたのだ。
「(スカウトが見ているという)話を聞いてからは、自分もフロンターレの中に入ることをイメージして、どういうプレーをすればいいのか、考えながら関東リーグを戦うようになりました。僕自身のプレーは、徐々に変化していったと思います」
今冬のキャンプに参加したときは映像で見ている以上の衝撃を受けたが、それも前向きにとらえた。
「いい経験になったと思います。自分の課題と真摯に向き合って、練習から足りない部分を補っていくつもりです」
バージョンアップに力を注いでいるが、本来の自分は見失っていない。デンソーカップで武器であるパワフルな守備で中盤を引き締めていた。
発展途上の段階で獲得に踏み切った向島スカウトは、今後の成長に大きな期待を寄せている。
「まだ入団までには1年もあります。今はフロンターレのスタイルに合わないと思う人がいるかもしれませんが、私は先の姿を想像しています。今だけを見て、オファーを出したわけではありません。松井には伸びしろがあります。あのスタミナ、体の強さに技術が加われば、怖いものなしです。彼はうまくなりますよ。取り組む姿勢が素晴らしいし、何よりも人間性がいい。あれほどしっかりとした考えを持った学生はそういない。それに自分からフロンターレに来たいと言ってくれました。『(ポルトガルに移籍した)守田英正や田中碧のようなボランチになれ』とは彼には言っていません。『松井蓮之でいいんだ』と話しています。これからが本当に楽しみです」
近年では守田英正、旗手怜央、三笘薫、橘田健人らを大学時代からチェックし、チームに迎え入れてきた目利きの言葉である。無骨なハードワーカーの松井が、どのような変貌を遂げていくのだろうか。ますます目が離せなくなってきた。
取材・文◎杉園昌之 写真提供◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子