サンフレッチェ広島に先行される苦しい展開の中で、横浜F・マリノスの左の翼がピッチで躍動した。左ウイングを務めた前田大然が前半に追撃弾、後半に同点弾をスコア。3-3のドローに持ち込み、チームに勝ち点1をもたらした。

上写真=広島戦で2ゴールを挙げた前田大然(写真◎小山真司)

■2021年3月7日 明治安田生命J1リーグ第2節(@日産スタ/観衆4,906人)
横浜FM 3-3 広島
得点:(横)前田大然2、オナイウ阿道
   (広)ジュニオール・サントス、東俊希、ドウグラス・ヴィエイラ

外に張るのはあまり得意じゃない

 昨季は左ウイングという役割を消化できず、その持ち味を出し切れなかった前田が、この日は試合のスタートから躍動感を感じさせた。強い意欲は開始20秒のプレーに表れる。アバウトなフィードをオナイウ阿道が頭で落とし、それを拾って一気に加速。ボックスまで到達し、シュートを放った。ボールはGK大迫敬介の正面を突いたが、前田のこの試合に懸ける意欲を感じさせた。

 昨年はシーズン途中に加入したが、今季は完全移籍を果たし、F・マリノスの一員として始動。「今年はキャンプの最初からできていますし、言い訳は通用しないと思っています。チームが求めてることをしっかりやった上で、ゴールだったりアシストだったり、結果を残していきたい」と本人は強い意気込みでシーズンに臨んでいる。

 その思いが結実するのは、前半34分だった。広島に2点のリードを許し、追いかける展開の中で、前田が特長を発揮した。岩田智輝が前線に送った浮き球めがけて加速。その迫力に焦ったか、広島のCB荒木隼人はヘディングでクリアできず、ボールはピッチで大きくバウンドした。広島の右サイドバックの野上結貴がキープしようとするところへ、前田は強引に体をねじこみながら反転。そのまま裏へ抜け出して、冷静にゴール右に蹴り込んだ。

「相手のイーブンのボールをうまくコントロールできて、落ち着いて決められたかなと思います」

 落下点に誰より早く到達するスピード。当たり負けしない体の強さ。そしてGKの位置を見極めて決めたシュート。独力でゴールをこじ開け、劣勢だったチームのスイッチを入れた。

 この日の前田はこれだけでは終わらなかった。2-3という状況で迎えたゲームの中盤。67分に再びネットを揺らす。左サイドを突破し、ボックス内にまで到達した渡辺のクロスに頭から飛び込み、ヘッドで同点ゴールを決めたのだ(3-3)。

「まったく中の状況を見ずに突っ込んでいった感じだったので、良いボールが来てよかったです」と本人は振り返ったが、あの瞬間にゴールのにおい嗅ぎ取り、あの場所に移動し、そして相手より先にボールに触ったことが素晴らしい。しかも、しっかり枠内にヘディングを決めた。

「マリノスのウイングはどちらかといったら(外に)張るんですけど、僕は張るのはあまり得意じゃないので、自分のやりやすいようにやろうと。それがこういう結果になったのかなと思います」

「たぶん去年のようにやっていたら、うまくいかないと思っていたので。うまく中に入りながら自分の良さを出そうと思ってやっていました」

 必要とあらば自陣深くまで戻り、守備で貢献する前田も、ボールを前線へと運ぶ前田も、チームにとっては不可欠な存在だ。ただ、その魅力が最も表現され、そしてそのプレーが勝利に直結するのは、ゴールを決める前田だろう。

 F・マリノス流から前田流へと修正を加えた左の翼が、これからはチームの大きな武器になりそうだ。

取材◎佐藤 景 写真◎小山真司