2021年3月6日、明治安田生命J1リーグ第2節が開催された。味の素スタジアムでは、FC東京とセレッソ大阪が対戦。アウェーチームが先行し、ホームチームが追いつく激しい展開の中、アディショナルタイム(AT)に森重真人がゴールを挙げたFC東京が最後の最後で差し切った。

上写真=森重真人のヘッドがゴールに吸い込まれた瞬間の一枚。キム・ジンヒョンの無念の表情がこのゴールの意味を物語る(写真◎小山真司)

■2021年3月6日 明治安田生命J1リーグ第2節(@味の素ス/観衆4,768人)
FC東京 3-2 C大阪
得点:(F)田川亨介、レアンドロ、森重真人
   (C)大久保嘉人、原川力

・FC東京メンバー:GK波多野豪、DF中村帆高、渡辺剛、森重真人、小川諒也、MF東慶悟(72分:三田啓貴)、アルトゥール・シルバ(46分:ジョアン・オマリ)、安部柊斗、FW田川亨介(59分:田川亨介)、ディエゴ・オリヴェイラ(72分:永井謙佑)、レアンドロ(90+4分:渡邊凌磨)

・C大阪メンバー:GKキム・ジンヒョン、DF松田陸、西尾隆矢、瀬古歩夢(59分:進藤亮佑)、丸橋祐介、MF坂元達裕、奥埜博亮、原川力、清武弘嗣、FW大久保嘉人(59分:松田力)、豊川雄太(77分:高木俊幸)

「熱い内容」と長谷川監督、クルピ監督は「見ごたえのあるゲーム」

 最初にネットを揺らしたのは、C大阪の大久保だった。14分、FC東京のDFと駆け引きするJを代表するストライカーに、坂元から斜めのボールが入る。ファーサイドからタイミングよく飛び込み、頭でわずかに触ったボールは、そのままGKに触れることなくゴールに吸い込まれた。J1開幕戦から3戦連発、早くも今季4点目となるゴールでC大阪が先制に成功した。

 先制を許したFC東京は、浦和との開幕戦とは異なる中盤の構成でこの試合に臨んでいた。東をアンカーに起用し、安部、アルトゥール・シルバの2人が左右のインサイドMFを務めて中盤中央で逆三角形をつくる。ただ、たびたび数的不利な状況に陥った。奥埜、原川の2ボランチと頻繁に中央でプレーする清武、坂元の両サイドハーフ、さらに大久保も最前線から下がってビルドアップに加わるC大阪に、うまくボールを逃がされ、なかなか前向きにボールを奪うことができなかった。前半45分は、C大阪が優勢。ホームチームは持ち味を発揮できなかった。

 だが後半になると状況が一変する。FC東京がアルトゥール・シルバに代えてオマリを投入し、2CBをオマリ&渡辺に変更。それに伴い、前半CBを務めた森重がアンカーに上がり、東は右インサイドMFへとポジションを移した。この交代とポジションチェンジがチームを劇的に変えていく。森重が相手の攻撃の芽を摘み、的確なパスと持ち上がりで攻撃をスムーズに機能させ始めたからだ。

 同点ゴールもその森重のパスがきっかけだった。54分、相手最終ラインの裏へ送ったボールは田川には合わなかったが、ボールを収めたC大阪の若きCB西尾にそのままプレッシャーをかけ、GKキム・ジンヒョンに戻されたボールも全速力で追いかけた。慌てたキム・ジンヒョンは背を向けるようにボールを置いて、逆方向へのキックを試みた。しかし、ボールハンターと化した田川の足の方が早かった。ボールをつついて、ゴールイン。後半開始から流れをつかんだFC東京が1点を返した。

 C大阪もそのまま流れに飲み込まれず、3分後に加点に成功する。右サイドで松田陸、坂元、大久保が絡んで相手守備陣を引き寄せ、深い位置まで進入した大久保がマイナスのボールを折り返すと、ボックスやや外にいた清武がスルー。走り込んだ原川が右足で豪快に蹴り込んだ。見事なコンビネーションによるゴールでFC東京に傾いた流れを引き戻したかに思われた。ところが、そんな予想を超える展開が待っていた。この試合のクライマックスは、ここからだった。

追いついて追いついて最後に勝ち越す

 追いついたのも束の間、たちまち突き放されることになったFC東京はギアを入れ直し、ゴールを目指して前へ前への姿勢をより強めていく。殊勲の田川に代えてアダイウトンを投入。前向きの守備と切り替えの早さで強引にペースを手繰り寄せにかかる。すると71分、ルーズボールに反応した安部がボックスすぐ外で原川に倒されてFKを獲得。レアンドロが相手GKの裏をかき、直接沈めて再び追いついてみせた。

 さらに、である。三田と永井を同時投入して圧力を強めると、次第にC大阪の選手たちの足が止まり始めた。原川は「間延びしてしまった」と振り返ったが、週中にあったルヴァンカップ(徳島戦)からメンバーを一新しているFC東京と週中の川崎F戦(J1第11節)から先発を3人しか代えなかったC大阪の差が出たのかもしれない。そして90+3分、左サイドで得たFKの場面で、レアンドロのインスイングのボールに森重が飛び込み、バックヘッド。わずかにコースを変えたボールは、キム・ジンヒョンの足元を抜けてネットを揺らした。

「立ち上がりは硬さもあって、自分たちのサッカーができなかったですが、時間の経過とともに少しずつ形が作れるようになり、後半、森重がアンカーポジションに入ってからは昨年の良い時のように非常にボールが動くようになりました。後半はチャンスの数も多かったですし、得点はセットプレーからの2点でしたが、アグレッシブなゴールに向かうサッカーができたんじゃないかなと思います」

 森重のゴールが決まった瞬間、ベンチでガッツポーズをつくった長谷川健太監督は、しり上がりに調子を上げたチームの要因を説明した。そして、やや重たかった前半戦から修正を加えて追いつき、突き放されても下を向くことなく、前傾姿勢を保って再度の同点、逆転に持ち込んだ選手たちを称えた。

「浦和戦は追いつき、徳島戦は勝ちましたが、熱いゲームというわけにはいかなったので、そういう意味で今日のゲームは勝って、非常にチームとしても乗ってくると思います」

 チームを勢いづかせる、熱い内容で手にした逆転勝利。それをJ1のホーム開幕戦でやってのけた意味は大きいだろう。この1勝はスタートダッシュを掲げるFC東京にとって、勝ち点3以上の価値があると言っていい。

 一方のC大阪は川崎Fに続き、2戦続けて逆転負けを喫することになった。レヴィ―・クルピ監督は「結果は悔しいものですが、両チームの攻撃的な姿勢が非常に見ごたえがあった試合でした。(守備面は)少し安定感が欠けていた部分があったと思います。ただシーズンがが始まったばかりで、ベースができていない部分があるので、これから数試合をかけて修正していきたいと思います」とコメント。試合を重ねるたびに安定感は増すはずと、今後に期待を込めた。

取材◎佐藤 景 写真◎小山真司