天皇杯JFA第100回全日本サッカー選手権大会の決勝がいよいよ2021年1月1日に行われる。決戦を前にして、川崎フロンターレを率いる鬼木達監督は静かな炎を燃やす。目標としてきた複数タイトル、そして中村憲剛のラストゲームへの決意。

上写真=天皇杯準決勝ではやや苦しみながらも、秋田に2-0で快勝し、「2冠」に王手をかけた(写真◎小山真司)

「サッカーの面白さを伝えていきたいと思ってきました」

 川崎フロンターレの鬼木達監督の、そして選手たちの、クラブに関わるすべての人の思いは、鬼木監督のこの一言に集約されるだろう。

「もちろん(中村)憲剛への思いは僕だけじゃなくてみんなあると思います。でもそれよりも、大事なことは勝つということです。それを本人も一番望んでいるでしょうし、チームとして勝つことで気持ちよく送り出してあげることができます。勝負へのこだわりが大事で、いままでと変わらないスタンスで戦いたいと思います」

 目標としてきたJ1リーグとの2冠達成。引退を発表している中村憲剛の現役最後の試合。超攻撃サッカーの集大成。川崎Fにとってはさまざまなファクターが収れんされていく物語。そんな元日決戦が目の前に迫っている。だが、さまざまな要素が複雑に絡み合えば絡み合うほど、答えはシンプルになっていく。

「サッカーの面白さを伝えていきたいと思ってきました。面白さというのはゴールだと思っているので、そこにこだわり続けます」

「大変なときなのでひたむきに頑張り続ける姿勢というか、超アグレッシブに戦おうと言ってきたので、何も怖がらずに自分たちにフォーカスしながら戦えれば、そして見ている人に気持ちを伝えられればなと思っています。プロでもこれだけ頑張るんだという姿を見せられればいいと思っています」

 決勝の相手、ガンバ大阪とは前回、11月25日のJ1第29節で対戦して5-0で圧勝、J1優勝を決めた。いいイメージは残っているが、「まったく参考にならない」と鬼木監督は警戒心を強める。

「J1でつくってきた記録(最多勝ち点や最多得点)の話も出ますが、今回それはアドバンテージにならない大会です。ですから、自分たちのサッカーに集中すること、そのベースとなる戦うところが大事です。ガンバにはリベンジの思いもあるでしょう。でも、最初から複数タイトルを目指し続けてきているので、1年分の思いをピッチで表現できれば」

「お互いがガチンコ勝負、真っ向勝負になると思います。コンディションも前回はガンバは中2日だったからということもありますが、今回は(ともに中4日で)参考になりません。お互いベストを出せる状態だと思うので、そこで戦えるのはうれしく思います」

 川崎Fはまだ天皇杯を掲げたことが一度もない。4年前にチャンスをフイにしている。決勝に進出しながら、鹿島アントラーズに延長の末に1-2で敗れた。鬼木監督はそのときコーチで、この後に監督に就任した。あの苦々しさを経験として生かすチャンスがやって来たのだ。

「決勝に進むこと自体が簡単ではないけれど、そこに進んだことに満足してはいけないですね。一発勝負は経験してきているし、そこへの思いをぶつけるのが大事です。平常心は必要ですが、それ以上のものを出さないと一発勝負は勝てません。そのバランスを大事にして戦いたいと思います」

 平常心とプラスアルファ。そのバランスを上手に取ることができるかどうかは、そのままチーム力の反映になる。「川崎フロンターレ」というクラブの総合力がピッチに投影されるはずだ。その力の一つを、鬼木監督は真剣な眼差しでこう表現した。

「パスをつないで、というのが言葉として合っているか分かりませんが、自分たちのスタイルを貫きながら、ただ、一発勝負なのでそこは考えながらというか、一番点を取れる方法を選ぶべきだと思います」

 すべてはゴールからの逆算。決勝戦だからこそ、その基本中の基本に立ち返って研ぎ澄ませていくだけだ。