FC東京は12日、ホームにサンフレッチェ広島を迎えた。ACLの開催地、カタールから帰国したばかりで主力が欠場する中、若い選手を中心に気持ちの入ったプレーを披露。決勝ゴールを挙げたのは大卒ルーキーの中村帆高だった。

上写真=中村帆高のJ初ゴールはチームを勝たせる決勝点になった(写真◎J.LEAGUE)

■2020年12月12日 J1リーグ第31節(観衆9,755人/@味の素)
FC東京 1-0 広島
得点:(F)中村帆高

やっとFC東京の一員になれた

 65分、右サイドで紺野和也の浮き球パスを相手のDFの背後に送り、内田宅哉が反応してボールを拾う。そのままボックス右横から進入して、三田啓貴にマイナスのパスを折り返す。

 この一連のプレーが始まったとき、中村帆高はまだボックスから離れた場所にいた。ただ、ボールと人の動きに合わせて、前方のスペースへ素早く移動する。それは前半からイメージしていたプレーだった。

「前半から相手に攻められる場面がありましたけど、逆にこっちも奪ったあとのカウンターで相手のゴールに行けるときが多かった。そこでクロスまで行ったときに、相手がブロックを組んでいてマイナスの部分が空くというのは思っていました。なので、チャンスがあったら、逆サイドからのクロスだったり、そういうときにはスペースを見つけて入っていこうと思っていて、案の定、いいタイミングでタマさん(三田)からボールが来たので」

 内田からのボールをボックス内で受け取った三田は、自身の左に走ってきた中村帆に横パス。完全にフリーになっていた左サイドバックは左足を豪快に振り抜いて、シュートをゴール左上に突き刺した。「ちょっとトラップはミスりましたけど、無我夢中で蹴りました」と本人が振り返る一撃は、相手を意気消沈させる先制ゴールであり、チームを勝利に導く決勝ゴールになった。そして自らのJ1初ゴールでもある。

「今年1年、試合に出せてもらう中で得点だったり、アシストという結果を示すことが1回もできていなくて、自分自身はすごく悔しい思いがありました。チームに対して何も貢献できていない悔しさがあったので、(ゴール後の喜びは)そういう思いが一気に爆発した感じです」

 ネットを揺らしたそのあとで、ゴール裏の看板を飛び越え、サポーターの前まで行って感情をあらわにしたのは、溜めてきた感情があふれ出たからだった。

 中村帆はこの試合に人一倍、強い気持ちで臨んでいた。6日前にカタールで開催されていたACLのラウンド16、北京国安戦に途中出場したが、チームを勝利に導くことはできなかった。ACL再開初戦の上海申花戦ではハンドにより相手にPKを献上。0-1の敗戦に直結するプレーをしてしまった。初めてのACLは非常に大きな経験になった一方で、苦い記憶とともに胸に刻まれる大会になった。

「今日はカタールの(ACLの)出場時間が短いメンバーとか、こっちで残っていたメンバーが主に出て、みんなが個人個人で、この一戦にぶつけていた。とりあえず出し切ろうと、気持ちで戦おうとみんなで試合に入りました」

 実際、中村帆は気持ちの入ったプレーを続け、ゴールという結果を出し、そして勝利に貢献した。それでも、と本人は冷静に自分を見つめて言う。

「自分の点でチームを勝利に導くことができて、やっとFC東京の一員になれたのかなとは思います。ずっとチームにも申し訳ない思いでいっぱいでしたから。ただ、ここは初めの一歩の過ぎない。もっと東京の勝利に貢献したい」

「最初の一歩としてのスタートラインに立てただけで、こんなんで満足していたらそれだけの選手になってしまう。本当に次の結果に向けて、やらなければいけないと思っています」

 目指す場所は、はるか先。大卒ルーキーながら、この1年間で感じてきた悔しい思いは、まだまだ払拭できてはいない。本当の勝負はここからだと自覚する。

 今ようやくスタートラインに立った中村帆は、FC東京にもっともっと必要とされる選手になると誓った。