北海道コンサドーレ札幌の早坂良太が引退を発表し、オンラインで取材に応じた。現役引退を決めた理由やラスト3試合の臨む現在の心境について、思いを語った。アマチュア選手からプロサッカー選手になった早坂にしか発することができない言葉を、ここにお届けする。

上写真=取材陣の質問に一つ一つ丁寧に答えた早坂良太。その姿勢もまさにプロフェッショナルだった(写真◎北海道コンサドーレ札幌)

最後まで自分らしくやりたい

 引退理由をあらためて語る早坂の表情には、一点の曇りもなかった。まだ3試合を残すから、表現としては正しくないかもしれないが、『やり切った男の顔』に見えた。

「30歳を越えてからは毎年毎年、1年が勝負でした。そういう目標の中でやらないと自分の準備やメンタルが持たなかったので、毎年そう思ってやってきました。去年も実際、悩みましたから。今年はコロナがあって、自分を見つめ直す時間があったので、それで自分の体だったり、色んな部分と向き合って、早い段階で自分の中で決めていたんです」

 達成感と言っていいかもしれない。現役プレーヤーとして、一線を走り続けてきた自負もあるだろう。

 自身の代理人に引退の意思を伝えたのは、11月14日、ホームのサガン鳥栖戦のあと。古巣との対戦の試合後だった。

「夏には(引退を)決めていましたね。いま、僕は単身赴任でこっちにいるんですけど、夏休みに家族が来たときに奥さんと子どもに言いました。そういうつもりだから、と言って。奥さんは、毎年僕がそういうつもりでやっているのは知っているので『そうなんだ』という感じでした。実際に代理人が来たときがちょうど、ホームの鳥栖戦のときで、あの試合でポストに当たってシュートが外れたんですよ。試合後に代理人に話すのは奥さんに伝えていたんですが、あとは『あれが悔しいから、もう1年続けるんじゃないかと思った』と言われました(笑)」

 はた目にはまだまだやれると映る。ただ、本人の意思は固かった。

「プロとしてやる以上、試合に出て貢献するというのが第一条件として必要だと思っています。その中でチームが勝つために、どうするかという順番になっていくと思う。その中で、チームが勝てていないときに自分が試合に出られない、貢献できないというシチュエーションになったときに、自分の存在価値は何だろうなというところになるというか。去年、初めて僕はリーグで20試合以上出られなくて、ベンチに座っている機会も多かったんですけど、そのときに、力になれないということと、チームに絶対に必要なことだと理解できるんですが、若返りをはかっていくと。その狭間にいました。
 若いヤツが試合に出るから俺は試合に出なくていいよね、とはならないし、同じ土俵で戦わなくてはならない。でも試合に先発できるのは11人ですし、そのバランスというか。なおかつ、今年に関してはコロナがあって練習ができなかったりという中で、自分でコンディションを上げなければいけなかった。ルヴァンカップも含めて試合数が減って、そういう90分間戦えるシチュエーションがないんですけど、常に試合に出たときのために、100パーセントの準備をするということはある。それを自分一人でやっていたんですけど、それができなくなってきた。しんどいのを、しんどいままで終わってしまうというか。ゲームに出たいですけど出られなくて、それでも準備をするという。メンタル的に限界というか、自分なりにこれ以上は維持できないかなというのが一番大きかったですね」

 決断に至った心の機微を、早坂は淀みなく語った。それはやはり、整理がついているからだろう。誰よりもプロとしての自負を持ち、プレーしてきた男らしい。

反対の声もある中で鳥栖入りの決断

 プロであることに自覚的なのは、スタートが他の選手とは異なるからだろうか。2008年、静岡大を卒業し、ホンダの社員としてHonda FCに入団した。プロの門をくぐったのは、その2年後。当時J2だった鳥栖に加入した。

「振り返ると、本当に恵まれていたというか。そもそも入りが、僕が大きい企業を辞めてプロになるという決断をしました。だから絶対に成功しないといけないと思っていましたし、『大企業を辞めるなんて』という人もいたので、別にそういう方向じゃなくても成功できることはあるんですよというのを事例として示したかった。僕みたいに迷っている人がいたときに、好きなことをやっても成功できるんだよというのを示したかった。僕自身もすごい悩みましたし、本当に辞めて大変じゃないかとか、思いました。だた、決断をして成功事例が出たら、そういう人がいるんだよということになる。そういう人がいるということは、その悩んでいる人も、同じシチュエーションではないですけど、やれると思うことになると思うので、そういう意味でも必死にやってきました。
 キャリアの途中で、成功って何だろうなと思うことももちろんあって、チームが勝てばいいのか、それとも自分がただ試合に出ればいいのかとか、鳥栖にかかわっていた人は分かると思うんですけど、そういう難しいシチュエーションがありました。でも自分が関われたというか、右肩上がりでいろんなシチュエーションに関われた部分は、人としても、選手としても成長できたと思っています」

 歩んできた紆余曲折のすべてが、早坂良太という選手を大きく成長させた。多くのファン・サポーターがその成長を見つめ、心を奮わせてきたのだろう。

「自分のサッカー人生でありますし、決断だったり、自分の責任で決めていくというのはテーマにしてきました。サッカー選手をやっていますけど、サッカーも自分が成長するためにやってきました。その考えを外してしまうと、自分自身、色んなところに逃げてしまうと思っていたので。実際に引退のリリースが出て、多くの人からメッセージが来た。僕が思っている以上に、僕のことを気にかけてくれる人が多いし、応援してくれていたんだなと、しみじみ感じました。恵まれているときは、こういうことが分からないんだと実感しました。やめるときに一番、それを感じるというのは幸せでもありますし、もう少し大切にできれば、じゃないですけど、そういうことも今回、思いました。今年は特にそうですけど、サッカー選手という職業を成立させてもらうために、多くの人々、医療従事者の方々も含めて、そういう苦労があって、僕らは成り立っている。本当に僕自身はこのサッカー人生に満足です。最後まで自分らしく、プロフェッショナルにやるというところを、やりたいと思っています」

 引退後の人生については、「やりたいことがいっぱいあるので、そのへんの優先順位と、ほかのサッカー選手よりはいろんなことをしてきましたけど、何に価値をもって自分が楽しいと思うところはどこなのか、真っさらな状態で見てみたいところもあります。色んな選択肢を考えつつ、という感じですかね、今のところは」と、頭の中では多くの選択肢を持っている様子だった。きっとこれからも目標をしっかりと定め、それに向かって力強く歩んでいくのだろう。

 現役として残された試合は、明日5日のセレッソ大阪戦を含め、あと3試合。「現役最後にミシャさん(ペトロヴィッチ監督)と一緒にやれて、小さい頃のサッカーが楽しかった頃を思い出すことができた」という指揮官のもとで、愛すべき仲間たちと「かけがえのない時間」をより濃密なものにするつもりだ。コンサドーレの勝利のために、プロサッカー選手、早坂良太として最後の瞬間まで戦い抜くーー。