明治安田生命J1リーグ第29節でガンバ大阪を破って優勝を決めた川崎フロンターレ。3度目の栄冠の裏には、プレーメーカーの大島僚太が抱えた葛藤と成長があった。「やめる」ことで手にした楽しみとは?

上写真=大島僚太はゲームキャプテンとして、表彰式でシャーレを最初に受け取った(写真◎J.LEAGUE)

■2020年11月25日 J1リーグ第29節(@等々力:観衆11,360人)
川崎F 5-0 G大阪
得点者:(川)レアンドロ・ダミアン、家長昭博3、齋藤学

やっぱり憲剛さんにつけてほしいと

 大島僚太が中村憲剛の左腕にキャプテンマークを巻いて思いを託し、86分にビッチを退くシーンは、2002年の川崎フロンターレを彩るシーンの一つとして、ファン・サポーターの心に深く刻まれるだろう。

「もちろん僕と憲剛さんが交代することは決まっていなかったことですけど、交代するというのを監督に聞いたときに、やっぱり憲剛さんにつけてほしいなと思いました」

 キャプテンの谷口彰悟が出場停止のため、大島が巻いた黄色の腕章。それが最後に、今季限りで引退を表明している中村の腕に渡って優勝の瞬間を迎える、というストーリーは、誰にも思いつかない。

「キャプテンマークはこの1試合だけしか巻いていないですし、なんとも言えませんけど、マークを巻いたからどうこうというよりは、チームとして今年にかける思いは強かったので、新しいチャレンジをした中での優勝でもあってすごくうれしさはありました」

 大島はこの日のゲームキャプテンとして、表彰式でシャーレを受け取る栄誉に浴することになった。でも、それをすぐに中村に渡して掲げてもらうように促したのもまた、中村への特別な感謝の思いの表れだった。

「まずは大分戦で決めたかったというところで、悔しさはかなりありましたけど、ただ、こうしてホームで試合ができるところと対戦相手が2位のチームだったところで、必然的に気持ち的にも整理できてモチベーションも高くなったので、メンタル的な部分は強く持てたと思います」

 11月21日の大分トリニータ戦では勝てば優勝なのに、0-1で敗れた。それがこのG大阪戦では見違えるように全員の足が動き、強烈なハイプレスの連続からボールを刈り取り、ゴールに迫っていって、終わってみれば5-0のパーフェクトな勝利。

「試合の流れの中で相手を見ながらプレーできる時間が多かったのかなと思いました」

 大島もこんな風に勝因を振り返るから、まさしく川崎Fが目指してきた「相手を見る」スタイルそのままに優勝を決めたことになる。それが何よりも尊い。

 この難しいシーズンに、大島自身は「やめる」ことでゴールと勝利に貢献するように努めてきたという。

「僕自身はいままでよりビルドアップに参加することは極力やめていますし、チームがあまりうまくいかないときに(後方のエリアに)降りすぎることは避けてやってきました」

 4-3-3のインサイドハーフがボールに触りたがって無闇に下がると、前への推進力が弱まるからだ。

「降りたいなという葛藤や降りてクリアにしたいなという思いをなるべく抑えながら前で我慢することや、前でチャンスに絡めるようにすることが自分の課題でした。自分の中の葛藤はありましたけど、結果的に前で関わる楽しさだったりを見出しながらプレーできたのかなと思います」

 鬼木監督が言い続けてきた「新しいチャレンジ」とは、チームが新システムを自在に操るようにすることだけではなく、選手それぞれが新しいスタイルを身につけることでもあった。

 だから、川崎Fが3度目のJ1優勝を決めた2020年11月25日は、「新しい大島僚太」の誕生日になるだろう。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE