上写真＝ハットトリックを達成し、指を3本立てて喜びを表現。家長昭博の存在感は抜群だった（写真◎J.LEAGUE）
■2020年11月25日 J1リーグ第29節（@等々力:観衆11,360人）
川崎F 5-0 G大阪
得点者：（川）レアンドロ・ダミアン、家長昭博3、齋藤学
「1年間やってきたことを出せたと思います」
ヒーローインタビューの一言に、心からの実感がこもっていた。
「今日が終わらないでくれ、という感じです、それぐらいうれしいです」
仕事人の笑顔がまぶしい。ホームで自力で優勝を決められる試合に、ケガから復帰して、ハットトリック。家長昭博、かっこ良すぎる。
2試合欠場する間に川崎フロンターレの優勝は決まらず、チームは等々力に帰ってきた。引き分け以上で自力優勝が決まるゲーム。鬼木達監督は欠場していた理由について「ケガですね。鹿島戦で足首をひねって痛めていました。実は昨日から注射を打ちながらやっている状況で、男気というかそういうものに期待して使ったわけですけれども、それに応えてくれました。背中で見せる、結果で見せる選手ですね」と感謝した。
監督に信頼に応えたかった、家長はそう話す。
「自分が左足首をケガして2試合出られなくて、優勝が決まっていなかったので、監督にホームのガンバ戦に出てもらいたいと言われました。選手としてはうれしいですし、期待に応えたいという思いがありました」
その結果が、ハットトリックだ。
まずは前半終了間際の45分、右からの田中碧のCKをレアンドロ・ダミアンがヘッド、それが家長のところに飛んできて、左足を伸ばして押し込んだ。
「1点目は昨日の練習でもやって狙っていた形ですね。ニアで誰かがすらして自分がファーに詰めるのを練習していて、その通りにいっていい感じで詰めることができました」
2発目は後半開始間もない49分。中盤のルーズボールを収めた三笘薫が中央をドリブル突破、右に並走した家長に渡すと、家長は右足できっちりと左隅に流し込んだ。仕上げは73分。自身2点目と瓜二つで、今度は左からドリブルで抜け出した三笘が右にラストパス、これをワンタッチでまたも右足で左に蹴り込んだ。
「2点目はいいタイミングで薫が出してくれたので、トラップして逆サイドに打てたのが良かったと思います。3点目も薫のアシストで、詰めるだけだったので良かったです」
もちろん、ゴールは最高なのだが、それだけではなかった。やはりこの男がいるのといないのでは大違い。チーム全体のリズム、テンポ、スピードの強弱、スペース攻略のタイミングがまるで違う。最初から最後まで川崎Fが試合を楽しんでいたのも、家長のリズムメークがあったからだった。やはり、ただ者ではない。
「いろんなプレッシャーもありましたし、この試合で決めたい思いがあった中で、全員が一つのボールに集中して戦えました。相手も相当なモチベーションで来たと思いますが、それを上回るプレーが出せました。1年間やってきたことを出せたと思います」
「自分自身も落ち着いてゲームに入れたと思います。自分のスタイルとしていろいろなところに顔を出すことはできましたし、ゴールを取れて非常に満足しています」
だがこれで今季が終わりというわけではない。天皇杯の準決勝から出場する権利を得た。
「1月1日の決勝でプレーしてカップを掲げるのは特別なことです。（中村）憲剛さんとプレーできるのも限られた時間しかないので、みんなでもう一度優勝して、全員で笑顔で終われるようにしたいと思います」
このチームにとってはそれも簡単なことなのではないか、と思わせるほど、圧巻の勝利だった。今日は終わるが、今日の感動は終わらない。またすぐに家長がカップを掲げて、新しい笑顔を振りまくだろう。
取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE