上写真＝11月1日に緊急会見をオンラインで開催し、今季限りの引退を発表した中村憲剛（写真◎KAWASAKI FRONTALE）
川崎フロンターレを、引退します
「私、中村憲剛は今シーズン限りで、川崎フロンターレを引退します」
オンライン配信された記者会見で、中村憲剛は今季限りの引退を発表した。前日の多摩川クラシコ、FC東京戦で自らの40歳の誕生日を祝う決勝ゴールを挙げてから、まだ24時間も経っていない。フロンターレのファン・サポーターはもちろん、日本中のサッカーファンに衝撃が走った。
「もともと30歳を過ぎたときに、自分の選手としての終わり方というか、引退をどうするかというのは誰しもが考えることだと思いますが、僕もそのうちの一人でした。そのときは、35歳まで頑張ろうと思っていて。それで35歳のときは、風間（八宏）さんが2012年に来て、自分自身のサッカー観も変わりましたし、チームも右肩上がりというか、みんな伸びながら僕自身も伸びながらで、33歳、34歳のときには35歳で辞めるという発想はなくなっていました。
35歳の誕生日を迎えたときに妻と、次は40歳までと（話しました）。一般的には言えば、Jリーグで40歳までやっている選手はほとんどいませんし、ほんと一握りなので、僕自身がどうなる分かりませんでした。その40歳というところで区切りをつける（と考えて）、35歳から残り5年は、目の前の1年1年を勝負して、やっていこうと決めました。
それで36歳でMVPをいただいて、37歳で初優勝して、次の年は連覇して、去年はルヴァンカップに優勝できて。終わりが決まったからか、それまでの苦労が嘘のようにどんどんタイトルが、個人としてもそうですけど、手に入った。そして自分の中で40歳で終わるという終着点が見えてきたところで、去年ルヴァンカップに優勝して、誕生日が来て、その次の試合（19年11月2日）で前十字を切った（左膝前十字靭帯損傷）。リミットを自分の中で決めていた段階で前十字を切ったので、これは何としても復帰して、みなさんにプレーを見せて引退するんだと思いました。
39歳という年齢で前十字を切って、そこからのリハビリに耐えて試合に戻る。今まで前例がないことでしたが、もともとモチベーションも高かったんですけど、自分の中で今シーズンで終わると決めていたので、1日でも早く戻りたいという気持ちが厳しいリハビリを耐えることにつながりました。
それで戻ってきて、鬼さん（鬼木達監督）と話をしながら、徐々に出場時間も増えてきて、昨日、40歳の誕生日の試合で自分が点を取って勝つという。自分でも言葉にならないようなパワーを感じました。けど、それはここで自分が引退するんだという強い気持ちがあったからこそ。ここまでの5年はとくに、色んなものが引き寄せられたと思っています。それは自分だけじゃなくて、チームメイトもそうですし、周りのスタッフもそうですし、多くの人のサポートがあってこそなんですけど、今シーズンの終わりに向けて集約されていっているような気がします」
35歳で現役続行を決断した時点で、40歳を次のリミットに設定し、走ってきた。ケガも克服し、首位を走るチームで出場機会を得ることのできる選手としてピッチに戻った。衰えは感じられないが、それでも自らの考えを変えることはなかった。
チームメイトのうち、年長者や在籍年の長い選手には先週、個別に話をしていた。ただ、多くの仲間たちは会見当日のミーティングで引退を伝えることなった。その衝撃はやはり大きく、相当なショックを受けている選手もいたようだ。会見の最後に花束を贈った小林悠は直接、決断を伝えられていたが、涙をこらえられなかったという。その様子を中村が明かした。
「（個別に話した）悠はそのときからボロボロ泣いていた。きょう、みんなで集まって話したときも、あいつは一人だけ最初から泣いていたので。会見でもいくな、と思ったんですけど、こらえたと言ってました（笑）。悠に関して言えば、本当に付き合いの長い選手の一人ですし、僕の後にキャプテンをついで、色んな思いを共有する選手。思うところは彼自身もあったと思いますし、僕も彼に思うところはある。そういう意味では、ああいうふうに涙を流してくれるのは、うれしいことです」
中村憲剛が、チームにとって、選手にとって、どんな存在なのか、良く分かる。
会見で引退の事実を伝えるとき、中村は「現役を引退する」とは言わず、川崎フロンターレを引退すると言った。その言葉に、18年間過ごしたクラブへの思いがこもっていた。クラブとは今後についての話もしているとしたが、まだ具体的なことは決まっていないという。いずれにせよ、フロンターレの発展にこれからも関わっていくことになるのだろう。その思いは本人も口にしていた。
今季の残り試合は、リーグ戦が9試合。さらにリーグ優勝が決まれば、天皇杯の準決勝に進出するため、天皇杯の準決勝と決勝を合わせて最大で11試合、川崎フロンターレのユニフォームを着てプレーする中村憲剛を見ることができる。
「残り2カ月、1日も無駄にせず、みんなとタイトルを取りたい」
みんなとはチームメイトであり、スタッフであり、ファン・サポーターを指す。
リーグ優勝を果たし、まだ手にしたことのない天皇杯を掲げて、スパイクを脱ぐーー。前日に40歳のバースデーゴールを決めてチームを勝利に導き、翌日に引退会見を行なった中村憲剛なら、そんな最高のシナリオを実演するかもしれない。