川崎フロンターレは10月31日の明治安田生命J1リーグ第25節でFC東京と対戦するが、この日は中村憲剛の40歳の誕生日。出場すれば思い出深い一戦になるはずだ。でも、ていねいに、大胆にプレーして勝つ意識はこれまでと変わらない。

上写真=中村憲剛が誕生日に試合を迎えるのは長いキャリアの中でも初めてになる(写真◎Getty Images)

「思えばよくここまで来たもんだ、と」

 J1第25節のFC東京戦は10月31日に行なわれる。中村憲剛の誕生日だ。しかも、「不惑」の40歳の。

「初めてかなあ、記憶にないな。昔で言えばナビスコカップ、いまではルヴァンカップの決勝がある週なので、あんまり試合と重なった記憶がないんです」

 調べてみると記憶の通り、10月31日に中村が公式戦を戦ったことはない。

「ここで(40歳で)巡ってきたので不思議だなと思いますね、そういう流れみたいのは」

 もちろん偶然でしかないのだが、昨年、左膝前十字靭帯損傷、左膝外側半月板損傷の重傷を負ったのが誕生日の2日後だった。それから1年後、40歳の誕生日に初めて試合を迎えるめぐり合わせ。

「大台だな、と思いますよね。30歳になったときもそう思って、40歳までプレーできる自分を想像できなかったから、なんと幸せな40代を迎えることができるのだろうと思っています。35歳を過ぎて1年1年が勝負だったところがあって、MVPだ、優勝だ、連覇だ、ルヴァン優勝だ、前十字だ、ってあっという間でした。正直、どうなるか分からない状態で30代を過ごしてきたので、思えばよくここまで来たもんだ、と」

 聞いているだけで同じように感慨深い心持ちになるが、もちろん、その試合でピッチに立って、しっかりと戦って、FC東京に勝たなければ、その思いも無になってしまう。連戦のあとの「中12日」という異例の日程で迎える「多摩川クラシコ」。ルヴァンカップ準決勝で敗れた悔しさとの相乗効果で、重みが違う。

 この小さな中断期間では、改めて攻撃サッカーの微調整に集中してきた。

「崩しのところの質は、東京が相手ということだけではなくて、今季ずっと突き詰めようと話をしてきたこと。シュートに持っていく形のイメージを共有しました。そこで引っかけられてしまうとカウンターを食らいますし、でもカウンターを怖がって安全なプレーを選んでもしょうがない。相手が嫌がるボールの持ち方だったり進入の仕方をしたいと思います。東京戦ではひと差し間違えばカウンターの武器が向こうにはあるので、ていねいにかつ大胆にプレーできるかですね」

「大胆」の部分で言えば、4-3-3のフォーメーションを採用したことで、前線の3人のパワーに自信を感じているという。

「前の3人のパワーを落とさないように周りがフォローするのが(4-3-3の)肝だと思っていました。3人が押し戻される状況は良しとしていないんです。その分、中盤の負担はあるけれど、奪ったときのカウンターの速度や人数のかけ方が全然違うんですよ。カウンターの威力は上がっていると感じています」

 速さの部分では、前向きに力をかけることのできる選手が多いことが、大きなメリットになっている。

「推進力のある選手もいるので、出ていくのはいいことだと思います。行きたいところを無理して止めるより、行けるならその方が相手も嫌だから。ただ、相手がそれを分かった上で行くのなら止めなきゃいけないですけどね」

「半々ぐらいですかね、行っていいと思うのと止まれと思うのは。でももちろん、行ってしまって成功すればナイスプレーになるわけで、サポートはしていますし、みんなでカバーしているので、若いのはガンガン行けと」

 そんな風に笑うのも、不惑の余裕だろうか。

 もちろん、ルーキーの頃から肩に余計な力が入らないプレースタイルだったが、いま改めて、自然体でサッカーに向き合えるようになったと自分を見つめる。年齢はもちろん、大きなケガをして立ち止まり、周りが見えるようになったからだという。「ベタですけど、人間的に成長したと思いますね」と話す表情が柔らかい。

 だが、ピッチに立てば話は別。プレーで惑わず、はつらつさを失わない秘訣は、うまくなりたい、という変わらぬ一心だろう。