JリーグYBCルヴァンカップ準決勝で難攻不落の川崎フロンターレを破ったFC東京。後半途中からピッチに入った中村帆高は、大学時代からしのぎを削ってきた三笘薫と何度も勝負した。「抑えたと思っていない」と本音を明かしたが…。

上写真=レアンドロとゴールを喜ぶ中村帆高。三笘薫とのバトルは見応え十分だった(写真◎Getty Images)

「自分を奮い立たせました」

 あの一瞬、「シンプルにやられたなと思いました」。

 ルヴァンカップ準決勝の川崎フロンターレ戦。55分に中村拓海に代わってピッチに飛び出して右サイドバックの定位位置に入った中村帆高は、直後の56分、大学時代からしのぎを削ってきた三笘薫と対峙し、あっけなくぶっちぎられた。

「久しぶりにやられてむちゃくちゃ悔しかったです。あそこでやられてたら自分が入った意味がない。だから、いい意味で忘れて、あのプレーで自分を奮い立たせました」

 長谷川健太監督からは「準備しておけよ」としか言われなかったのだという。だが「試合に出たときには役割としては、齋藤学選手や三笘薫への守備の部分を求められると思っていたので、その一言で分かりました」とその時を待っていた。

 長谷川監督は「特殊能力を持つ三笘に、こちらも特殊能力を持つ選手で抑えようと入れました」と起用の理由を話した。その三笘も中村帆のことを「いままでで一番対人が強い選手」とリスペクトしつつ、ライバル心をむき出しにしていた。それが、いきなりすり抜けられるファーストプレー。悔しさはなかなか消えない。

「大学時代からやってきて、昨日改めて感じたのは、薫はヤバい選手だということです。ディフェンダーとして1対1でドリブラーとマッチアップするのが楽しくて、その中でも一番、ディフェンダー魂を駆り立ててくれる相手です。プロのピッチでできて楽しかったですけど、やっぱりいきなりぶっちぎられた悔しさの残る試合でした。まだフロンターレとは(リーグ戦で)試合があると思うので、そこで出られたらリベンジしたいです」

 試合を終えた夜、次は負けないからな、と三笘から連絡が入ったという。「でも、まったく勝ったと思っていなくて、オレも負けないよと伝えました」。

 とはいえ、そこからは食らいついて無失点に抑えたことは、大きな達成ではないか。

「あのあとは抑えたと言ってもらえましたけど、好き放題やられた感覚です。多少は自由を奪うとかスペースを奪うということはできたかと思いますけど、主導権は握られていましたし、ましてや長谷川監督が信頼して投入してくれたのに、ファーストプレーでぶっちぎられては信頼を失ってしまいます。そこがいまの自分の甘さだし、反省してやっていかなければいけないと思います」

 まるで敗者の言葉のようだ。それだけ自分に厳しくて、妥協を許さないタイプなのだろう。

 それでも、極限の集中力で川崎Fの強烈すぎる攻撃をしのぎきった。ピッチの11人が一つの塊になった。

「全員で守るところは、東京が大事にしているところです。森重(真人)さん、(渡辺)剛くんを中心に素晴らしい選手がいて、あそこまでまとまって守ったら強いです。それに、ディエゴ(・オリヴェイラ)やレアンドロといった選手たちが後ろまで戻って体を張ってくれましたから、本当にチームとして気持ちが入った試合だったと思います」

 11月7日は、ついに決勝だ。

「最近、東京はタイトルがないということで、タイトル獲得の力になりたいと思います。残りの決勝までの期間、さらに努力したいと思っています」