明治安田生命J1リーグは第17節を迎え、FC東京はベガルタ仙台に1-0で勝利を収めた。貴重な決勝点を決めた三田啓貴は、ある思いを胸に覚悟のゲームに臨んでいた。自分の特徴を生かす。その強い意地でゴールをもぎ取ったのだ。

■2020年9月20日 J1リーグ第17節(@味スタ:観衆4,981人)
FC東京 1-0 仙台
得点:(東)三田啓貴

「いままでのプレーを忘れてやっていこうと」

「相手が止まっていたので、置き去りにしてゴールを決めることができました」

 三田啓貴が今季初ゴールを決めた。しかも、1-0の勝利をもたらす重要な一発。13分、中盤でアダイウトンが後ろから倒されてファウルとなり、FKが与えられる。目の前にあったボールを三田がすぐさま蹴り出して田川亨介に預けると、前にダッシュ、リターンを受けてドリブルでど真ん中を突き進み、ペナルティーエリアの直前で左足をきれいに振り抜いた。ボールはまっすぐにゴール右に飛んでいって、GKの手の先を抜けた。

「右に(中村)帆高がいたのが見えたのでパスの選択肢もあったんですけど、相手の寄せてくる具合も見て振り抜けると思って、コースをしっかり狙いました」

 ドリブルの強さと速さのバランスの良さ、立ち足の踏み込みから体重移動、左足の振り抜きまで、ドリブルシュートの見本として教科書に載せたいような、美しい動きだった。

 三田が置き去りにしたと言ったのは、一瞬足を止めた相手選手のことだが、比喩的にはもう一つあったかもしれない。自分自身だ。

「今日の試合は自分の中で気合が入っていました。昨日、ケンタさん(長谷川健太監督)と話をして、攻撃に絡んでほしいと言われていたんです」

「守備の強度は上がってきたけれど、その上でもっと攻撃に期待していると。それに応えられていないと思っていたし、要求されて悔しい部分もありました」

「型にはまった自分ではなくて、自然体でやろうと試合前から決めていて、このまま自分の良さを出せないで終われないと思いました」

 長谷川監督もこの顛末を明かす。

「インテンシティの強いプレーを心がけるようになりました。単純に言えば、戦えるようになってきたんですね。その上で、攻撃の良さを出してほしいと言ってきました。覚悟を持って臨んでくれたと思うので、その成果が得点という形で生まれました」

 つまり、三田啓貴という選手にとって、自分との勝負のゲームだったのだ。だから、「期待に応えることができなかった自分」を過去に置き去りにするつもりだった。

「若い選手が出てきましたし、もっと引っ張っていかなければいけないと自分に言い聞かせて試合に入れました。自分の良さは、どんどんボールに触って中央にも前にも後ろにもはたいて出ていくこと。それを東京に来てなかなか出せていなかったので、思い切っていままでのプレーを忘れてやってみようという感じでした」

 2020年9月20日は新しい三田啓貴の誕生日になったかもしれない。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE