9月12日のヴィッセル神戸戦で終盤にピッチに登場し、平川怜は今季初出場を果たした。プレー時間は短いながらも、本人は『機会を得たこと』に手ごたえを感じていた。その理由とこれまでの歩みについて本人が語る。

上写真=ベガルタ仙台戦を前に取材に応じた平川怜(写真◎FC東京)

今は周りを気にしない

 ヴィッセル神戸戦で平川怜は89分からピッチに入り、今季初出場を果たした。記録上は1分の出場。アディショナルタイムを入れても3分強。それでも、本人にとっては大きな意味を持つ一歩だった。

「自分が出た時間は最後の最後だったので、役割としては前からプレッシャーをかけて、もう一回チームに勢いをもたらすということを意識して臨みました」

「守備の部分でしか見せられなったと思いますけど、ボールを奪ったシーンとか、そういうところは自分自身も手ごたえを感じているので、もっと長い時間プレーできたらもっともっと良さを出していけると思います」

 今季の開幕戦でベンチ入りしたものの、その後はチャンスをつかむことができなかった。遠征に帯同することもかなわず、居残り組として小平グランドでトレーニングの日々を過ごしてきた。時には紅白戦に出場できないときもあったという。それでも長澤徹コーチ、佐藤由紀彦コーチら周囲に支えられ、顔を上げて、一歩一歩進んできた。

「やっぱり1年前、2年前よりかは自分でも成長を感じますし、試合に出る出られないは自分では決められない部分なので、今は自分の事だけにフォーカスして日々、自分のために練習しているという感覚です」

 早くから将来を嘱望された逸材だ。高校1年時にFC東京U-18でユース2冠を達成。U-17ワールドカップに出場し、17歳でプロ契約を結んだ。順風満帆に見えたキャリアが暗転したのは、プロ入り後だった。J1で出場機会を得られず、17年、18年、19年とわずか1試合のみの出場で終わった。昨季は途中からJ2の鹿児島へレンタル移籍している。

「プロになって初めの頃は他人のせいにばかりして、自分自身、本当に未熟だったと思うんですけど、鹿児島での経験もあったりして、メンタル的な部分で成長したところが確実にあると思います」

 少年はプロの世界で揉まれ、挫折し、そしてそれを乗り越えて大人になった。その成長は長谷川健太監督も認めている。練習にしっかり取り組み、戦える水準に達していればチャンスを与えるのが指揮官の信条。平川は今回、自らの手でチャンスをつかんだということになる。

「自分自身、思い描いていた通りのキャリアは進んでないですけど、そういう意味で焦りがあった時期もありましたし、つらい時期もありました。でもい今は自分のことがメインというか、『自分自身が成長すること』を軸に色んなことができている。今は周りのことはまったく気にしてはいないです」

 久保建英と比較された時期もあったが、自分は自分。今は自分の中に揺るがない軸がある。だから、プレーも変化してきた。

「一番の変化は走れるようになったことと、連続したプレーができるようになったこと。オフ・ザ・ボールのところで勝負できるようになったということを自分で実感しています」
 
 リーグの中断期間中に自主トレに励み、走れる体を手に入れた。自ら変化を望んだのは、ハードワークできなければ、FC東京で出場機会を得られないことが分かっているからだ。

「自分自身、開幕戦のベンチ入りとこの間の神戸戦のベンチ入りは意味が違うものだと思っていて、練習から手ごたえを感じているし、コンディションもかなりいい。開幕戦は出場できなかったですけど、今の方が全然、チームに貢献できる感覚があります」

 次はもっと出場時間を延ばし、そして勝利に貢献すると誓う。

「今は試合に出て活躍することが一番大事だと思っていますし、その準備はいつでもできているので。あとは試合で使ってもらったときに、高いパフォーマンスを見せられたら」

 その才能は誰もが認めるところ。自ら殻を破り、大人になった平川怜。その完全開花の瞬間を、多くのサポーターが待っているーー。