この日の広島戦までリーグ戦は3試合と出場機会が限られていた山村和也が、勝負を決定づける3点目をマークした。目の覚めるようなゴールを決め、スタジアムがどよめく中で、山村はひとり静かに目を閉じた。試合後に自らその理由を明かした。

上写真=攻守両面で存在感を示した山村(写真◎J.LEAGUE)

■2020年9月13日 J1リーグ第16節(@等々力/観衆4,770人)
川崎F 5-1 広島
得点:(川)田中碧2、レアンドロ・ダミアン、山村和也、小林悠
  (広)浅野雄也

「結果を残せてほっとしている」

 スタンドがどよめくほどの豪快なミドルシュートだった。CKの流れから相手DFのクリアボールを収めると、シュートコースを確認し、混戦のなかから右足を一振り。ボールは一直線にゴールネットへ突き刺さる。ホームの等々力競技場で沸くなかでも、ピッチに立っていた主役は大げさに喜ぶことはなかった。静かに佇み、目を閉じて今季初ゴールの味を噛み締めた。

「天国の子どもに活躍を見せることができました。早く活躍している姿を見せたくて。試合に出られない悔しさもありましたが、子どもにゴールを届けることができてよかったです」

 今年、第3子を生後2カ月で亡くしており、複雑な思いを抱えながらプレーしてきた。ゴールという目に見える形で結果を残せたことで、思わず感慨に耽ったという。

 今季は4試合目のリーグ戦出場。分厚い選手層に阻まれ、なかなかチャンスが巡ってこない。それでも、毎日のトレーニングには懸命に取り組む姿は変わらない。移籍2年目は忸怩たる思いで臨んでいる。「優勝するために来た」と話していた男はベンチを温めながら、自身初となるリーグ制覇の瞬間を迎えるつもりはない。圧勝した広島戦のあとも、またすぐにピッチに立つために反省していた。

「欲を言えば、失点0に抑えたかったです。次は0で抑えられるように頑張りたい」

 本人は謙虚に振り返っていたが、守備面で大きな問題点は見当たらない。むしろ、ハイラインの裏をケアする的確なカバーリングは目を見張った。鋭い読みを生かしたパスカットも光り、広島の強力なブラジル人FWコンビを封殺した。ジョジエウ、谷口彰悟の壁は高いものの、首位・川崎フロンターレの一員として十分に戦力であることをあらためて証明した。

取材◎杉園昌之