明治安田生命J1リーグ第12節で湘南ベルマーレに3-0で勝利を収めたFC東京。3試合の不出場からこの試合で復帰したのがGK林彰洋だった。ベンチから見つめた時間で得た気づきをさっそくピッチで表現してみせた。

上写真=ミスを改善する練習にフォーカスして、林が帰ってきた(写真◎FC東京)

エッセンスが凝縮された21秒間

 FC東京の不動の守護神と言われてきた林彰洋が、3試合もピッチから離れていた。J1第9節から11節まで、セレッソ大阪、名古屋グランパス、サンフレッチェ広島と骨のある相手とのゲームをベンチから見つめていた。

 その次の第12節、湘南ベルマーレ戦で帰ってきた。「3試合出ていなかったという状況だったので、意外と緊張感もありました」とは、聞いているこちらも意外だった。Jリーグ245試合目の出場となったベテランでも、それだけ「再スタート」の思いが強かったのだろう。

 自分がいないピッチを眺めて終わった3試合は、しかしただの270分ではなかった。ゲームマネジメントの細やかさがどれだけ大切なのか、そのことに改めて気づくことができた。

「感じたのは、プレーのスピードに気をつけるべきだということでした。この夏場の連戦で早いテンポでプレーできれば御の字ですが、10キロ以上走る中で、(ボールをキャッチしてから)早いタイミングでスタートしてしまえばスピードを上げなければいけません。もちろん、(早く始めて)本来ならばつないでいきたいところを、ロングボールを多用するぐらい割り切った判断をするシチュエーションも必要でした。昨日の試合(湘南戦)でもつなぐ場面もあったけれど、ロングボールを多用することによっていままで手数をかけたところを飛ばすことができてうまくいきました」

 プレーの緩急、ゲームのテンポをGKこそが調整できる、というプライドだ。それを実際にピッチで表現するのだから、さすが百戦錬磨の守護神である。

 湘南戦の84分のシーンがまさにそれだ。1-0でリードして試合は終盤。相手のFKをキャッチした林はすぐに蹴る仕草だけして一度とどまった。味方が落ち着いてポジションを取るのを確認してから、相手陣内までキックを届けた。これは相手がヘッドで触ったが、こぼれ球をディエゴ・オリヴェイラが拾うと、レアンドロとのパス交換から中央を割って、ディエゴ・オリヴェイラが貴重な追加点を蹴り込んだのだった。

「1-0で勝っていることもありましたし、後半に入ってどのくらい体力を使っているかによってもギアの上げ方が変わると思います。そこでの時間の使い方が重要になります。前線の選手は前で攻めたいけれど、後ろの選手が間に合わなくてひずみが出てしまうと劣勢になってしまう。ここ3試合を見ていて、その使い方、チームマネジメントは大事になるなと感じさせられました」

 前線がいの一番に前に出ていき、でも続く中盤から後ろの選手もしっかりとポジションを整える時間を作り、ロングボールで一気にゴールのきっかけを作る。まさにエッセンスが凝縮された21秒間だった。

「いるだけで空気が変わるキーパーにならなければいけない」

「チームとしては勝てるキーパーを使いたいと思う」

 そんな思いを強く感じた2020年8月。改めて、青赤の守護神として林彰洋が帰ってきた。