上写真=記録のためではなく、未知の世界を見るために鬼木監督は勝ち続ける(写真◎Getty Images)
「気にしていないんです」
「毎回、面白くないコメントで申し訳ないのですが…」と本当にすまなさそうに笑いながら、川崎フロンターレの鬼木達監督は話すのだ。
「(リーグ連勝記録は)気にしていないんです。勝ち続けないと見えないものがあって、勝ち続けることで成長できることがあって、だから勝ちたいんです。連勝記録のためということではなくて、このチームと個人を強くしていくのに、向かってくる相手に勝っていってそのことを実感したいので、勝ち続けたい、という意味です」
次節も勝って10連勝となれば、延長戦を除く単一シーズンの連勝記録として、鹿島アントラーズ、ガンバ大阪を超えて新記録達成だ。だが、鬼木監督の、そして川崎Fの選手たちの思いは「経験したことのない世界を実感したい」というところにある。記録のためではなく。
まるで冒険者のような姿勢だが、それができるのも勝っているからこそ。「どんどん前に進むことによって、いろいろな経験ができます。自分が監督になってからも経験したことのない形で進んでいるので、チームも個人もこの経験が成長の糧になります。もちろん、すべてがこのまま順調にいくと思っていませんが、何か起きたときにまた新たなパワーを出していけると思っていますし、そうやって強くなっていきたいので、行けるところまで行きたいと思っています」と未知の世界へ思いを馳せる。
独走は許さないとばかりに次節で挑んでくるのが、勝ち点差7で2位のセレッソ大阪。もちろん、当事者にその意識はないとしても、連勝記録がかかったこのタイミングで、2位で追いかける堅守のチームが牙をむいてくる、という状況は、Jリーグの夏の夜の物語としては最高だろう。
「ロティーナさんが監督になってから積み重ねているものがありますし、余裕を感じさせるゲームが多いと思います。なおかつ個の技術がしっかりしているので、ゲームを通して慌てることがないという印象があります」というのがC大阪の印象。技術対技術のハイレベルな90分になりそうだが、「何とかして攻撃で脅かせることができればいいと思っています」と攻め抜く姿勢はもちろん貫く。
「一番は相手に合わせることなく、テンポ、リズム、アグレッシブさをどれだけ出せるか。いろいろな意味でチャレンジが必要な相手だと思っています」
人がうらやむ9連勝の最中にあってさえも、チャレンジャーであることをやめようとしない。相手に対して、もそうだが、何より自分たちに対して。
「いますごく大事にしているのは、自分たちがこういう立場になって守りに入らないことです。どのチームも自分たちに一泡吹かせてやろうと思って向かってきますが、受けに回らないことです。サッカーの部分でもそうですが、特に気持ちのところが大事です。そこが一番成長につながるので、意識しています。こういう状況に持ってくることができている、ということを楽しもうということは強調しているんです。引退したから分かるのですが、選手のときはいつも見えないプレッシャーと戦っていて、だったら選手は楽しめばいいプレーができるんです」
楽しんで、勝つ。すべてのサッカー人が理想の境地と夢見る場所へ、鬼木監督と選手たちは真っ直ぐに向かっている。