8試合目にしてようやく、今季初勝利を手にしたサガン鳥栖。上位のFC東京に対してアウェーで戦う難しさを乗り越え、選手全員で戦い抜いた。貴重な2点目を決めたのがルーキーの森下龍矢。ものすごいミドルシュートだった。

上写真=森下は左足で突き刺したプロ初ゴールで勝利の立役者に(写真◎J.LEAGUE)

■2020年8月1日 J1リーグ第8節(@味スタ:観衆4,760人)
FC東京 2-3 鳥栖
得点:(東)レアンドロ、原大智
   (鳥)石井快征、森下龍矢、趙 東建

『最強明治』が日本を勝たせる

「ゴールだけしか見えませんでした」

 43分、前を向いてボールを持つと目の前にスペースが空いている。持ち出して左足を振り抜くと、次の瞬間にボールはネットを揺らしていた。

 森下龍矢は今季新加入のルーキー。これがプロ初ゴールだ。先制したものの39分にレアンドロの強烈なFKで同点とされていて、いまだ勝利のないチームが自信を失う可能性もあった。しかし、その4分後の追加点は間違いなくチームを救った。「これまで勝ち越し点をチームが取れていなかったので、僕がゴールでチームを引っ張る気持ちで迷いなく打ちました」と満面の笑みだ。

 ゴールへの感覚を独特な言葉で表現できるのも、この男の魅力だろう。

「1試合を通してアウトサイドから相手陣内に進入していたのですが、あのときはインサイドから進入できました。ゴールと自分が線でつながる感覚があって、迷わず打ちました。あとから逆サイドで内田(裕斗)がフリーだったと聞いたんですけど、まったく見えていませんでした。周りがまったく見えずにゴールだけしか見えませんでした」

 線でつながる感覚…一体どんなものなのなのか。それを生んだのも、きっと「練習」だろう。

「いまはサイドバックですが、大学時代はサイドハーフだったので、懐かしいですが、死ぬほどシュート練習をしていたのを思い出して、いいシュートが打てたんだと思います」

 明治大学出身で、対戦相手のFC東京には大学でともに戦った仲間である安部柊斗と中村帆高が所属している。中村はベンチ外だったものの、安部の目の前で最高のゴールを決めてみせた。そんな「元チームメート」への思いが熱いのだ。

「僕自身、今日の試合には思い入れがありました。スタジアムに来る前に明治大学の前を通ったり(練習場のある)八幡山を通ってきて、帰ってきたなという気持ちが湧いてきました。大学時代は隣の味の素スタジアム西競技場で何度も試合していて、鳥栖の選手としてゆかりの場所でグレードが上がったところ(味の素スタジアム)でプレーできるし、柊斗と帆高のいるチームと戦えるワクワク感は試合前から止まりませんでした」

「正直なところ、大学時代に柊斗と帆高にあこがれていたんです。彼らの背中を見て勇気づけられて、いつか追いつきたいなと思ってきました。今日のゴールで追いつけたかな、彼らに刺激を与えられたかな、と思います」

「明治大出身の選手が他にも活躍していて、ジェラシーみたいな感じがふつふつと僕の中にあるので、まずは鳥栖のために結果を残すこと、それからあいつらはずっと仲間なので別な場所にいても切磋琢磨したいです。刺激を与え合って代表でまた会いたい。『最強明治』が日本を勝たせる時代が来るように、僕自身頑張りたいと思います」

 自慢の初ゴールが生まれたこの日、ライバル物語に新しい章が書き加えられたようだ。

取材◎平澤大輔 写真◎J.LEAGUE