J1再開となったFC東京戦は0−1の黒星。しかし、柏レイソルには後ろ向きな空気は流れていない。FC東京戦でネルシーニョ監督が施した交代策は、直接的に結果に結びつかなかったが、次へとつながるポジティブな効果をもたらした。

上写真=新加入の神谷は途中から出場して攻撃のパワーを加えた(写真◎KASHIWA REYSOL/J.LEAGUE)

「縦パスを入れていこう」

 昨季2位のFC東京に対して0-1の惜敗。7月4日の再開初戦は勝ち点を手にすることができない夜となった。

 だからとって、何も残らなかったわけではない……そんな前向きな空気がチームを包んだ。例えば、センターバックの染谷悠太。「セットプレーで失点したけれど、流れの中で危ないシーンは前半にいくつかあったぐらいでそれほどなかったですし、どんどんこれから良くなっていくというのがポジティブなところだと思います」。例えば、ネルシーニョ監督。「結果は残念ですが、継続してやってきたことがパフォーマンスとして表れたポジティブな試合」

 ポイントはやはり、失点にまつわる流れになるだろう。ヒシャルジソンがアダイウトンを引っ掛けてしまい、2枚めのイエローカードで退場。ここで与えたFKは壁に当たってCKとなり、それを最後はFC東京の渡辺剛に押し込まれてしまう。62分のことだ。ネルシーニョ監督はすぐさま交代カードを切る。マテウス・サヴィオ、アウト。戸嶋祥郎、イン。

 1人少なく1点ビハインド。劣勢を打破するためにネルシーニョ監督が打った手は、J1デビューとなった戸嶋の説明によれば、こうだ。「まず4-4-1というシステムにして攻撃していく中で、なるべく間に顔を出して、1人足りないことをごまかしていく作業をしていこうと」。運動量豊富な戸嶋に中盤を広くカバーさせ、オルンガ、江坂任、瀬川祐輔、大谷秀和をゴール前に送り込み、高橋峻希、古賀太陽のサイドバックも攻め上がって1点をもぎ取る作戦だ。

 続けて70分に大谷に代えて神谷優太、78分に瀬川に代えてこちらもJ1デビューの仲間隼斗と、今季加入したフレッシュなアタッカーを次々と送り出した。右からは江坂、中央から神谷、左から仲間、そして最前線にはあのオルンガ。堅固な守備陣を崩しにかかった。

 狙いはネルシーニョ監督自身が解説している。「1人足りない状況での展開なので、1点ビハインドで点を取るためにクリエイティブな選手を投入して引き分けに持ち込む狙いでした。タニ(大谷)のところに戸嶋(祥郎)を入れてボランチにしました。神谷も仲間も攻守に走れる選手で、神谷にはもう少し攻撃の起点を作ってほしいと指示しました。江坂(任)、瀬川(祐輔)、仲間からの効率の良いミカ(オルンガ)へのボールフィードでチャンスも作った。そういう狙いで戦術変更をしました」

 少し時計を戻して、ハーフタイム。ネルシーニョ監督はこんな指示を出していたのだという。「前半はサイドから崩しにかかるシーンが多かったので、それもオッケーだけど、もう少しミカをターゲットにして中央から攻めようと話した。ミカ自身もサイドに流れてボールをもらいたがったので、なかなか効率よく中央を攻略することができなかった。幅を使って横にボールを動かすことも大事だけれど、状況に応じたプレーをして、空いたスペースを見逃さず、縦パスを入れていこうと」

 だから、あの3人を選んだのだということが分かる。1人少ない状況で「中央崩し」を狙うには、やみくもに攻撃陣を突撃させるのではなく、戸嶋の投入でまず守備のバランスを整えて土台を作り直しておいて、その上で神谷と仲間のアグレッシブな突破力を組み込んでオルンガと絡ませた。江坂に疲労はあったものの、ボールに触ると何かを起こすマジシャンのようなセンスがある。

 ピッチの中での実感はどうだったのか。最終ラインで見守った染谷は、「1人少なくなっても後ろから数的優位を作っていけば大差ないというか、ピッチ上でもベンチからもそういう指示でした。ポゼッションしながら進攻していくところはしっかりオーガナイズできていたのかなと思います」と胸を張るのだ。

 上を向いて歩く太陽王の次なる相手は横浜FC。ご存知の通り、かつて柏の監督を務めた下平隆宏監督が率いる「昇格同期」だ。

「私が前回、トップの監督をしていたときに、シモはU18の監督をしていて、基本的に4−1−4−1のフォーメーションをベースにしながら可変的に4−3−3にしていく印象があります。中断期間に3バックを準備しているという分析があって、実際に前節の札幌戦でも採用していました。堅い守備からショートカウンターを仕掛けてくるチームで、対応するために戦術的な部分に取り組んでいますよ」

 昨季の師弟対決は、横浜FCが1−0で勝利を収めている。リベンジに燃える「師」は、「弟」にどんな姿を見せるのか。知将・ネルシーニョの策はいつ見ても本当に興味深い。

現地取材◎平澤大輔 写真◎KASHIWA REYSOL/J.LEAGUE