フォルス9
ルヴァンカップ開幕戦の鹿島戦で先発フル出場を果たした阿部（写真◎J.LEAGUE）
現在の主戦場はトップ下。開幕戦ではゴールばかりか、ライン裏へ走る山﨑凌吾に好パスを送って決定機をつくりだした。ただ、両翼でも仕事の質は高く、1トップも難なくこなす。いや、厳密に言えば、フォルス9（偽9番）風だが。
事実、川崎Fで一時期、トップ下の中村憲剛と見事なコラボを演じている。そこで重鎮の憲剛が舌を巻いたのは阿部の守備だった。ボールの持ち手を自滅に追い込む手際は前線プレスの教本で、これが敵陣で守り、攻め続ける川崎Ｆのスタイルをあと押ししていた。
開幕戦を見る限り、前田はトップよりも得意の右サイドで使ったほうが断然、持ち味が生きる。いっそ阿部を1トップで使っても面白いかもしれない。ただ、マッシモ・フィッカデンティ監督にその気はないだろうが……。前田へ寄せる期待はスピードスターの一騎駆けか。手数をかけずに敵のゴールへ迫るカルチョの理屈なら。
いや、カルチョ式であれ何であれ、阿部の立ち回りには少しも影響を与えない。チームの戦い方なんぞに左右されず、新しい環境に適応してしまう。やっぱり「どこでもドア」的だ。
ただ、渋い脇役がよく似合う。最優秀助演男優賞の常連みたいな人だ。だから主役が映える。ドラえもん的な人たちが。G大阪でも川崎Fでもそうだった。
優勝請負人へ仕上がった秘密はそこにあるのかもしれない。誰かが我こそは――と主役へ名乗りを上げたときに阿部がとっておきの武器になるんじゃなかろうか。名古屋もきっと……。
Profile
あべ・ひろゆき◎1989年7月5日生まれ、奈良県出身。2012年に関西学院大からガンバ大阪に入団。スーパーサブとして存在感を示しつつ、2014年には先発機会を格段に増やし、チームの三冠達成に貢献した。2017年に川崎フロンターレに移籍すると、同年、翌年とリーグ連覇に尽力。昨季はルヴァンカップ優勝を果たし、行く先々でタイトルをもたらすことから優勝請負人と称される。170cm、68kg