ルヴァンカップは第1節、J1、J2も第1節を終えて中断となった。この連載では開幕戦を材料に『シーズン最初の一歩』で目を引いた各クラブの注目選手を紹介していく。連載第5回は名古屋グランパスのMF阿部浩之を取り上げる。

上写真=同点ゴールを挙げて絶叫する阿部(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡

一流のプロフェッショナル

 扉を開けば、あら不思議。その先にはゴールという目的地が――。今季から名古屋グランパスに加わった阿部浩之は、まるでドラえもんの「どこでもドア」みたいな選手だ。

 この人がアタッキングゾーンに出没すると、決まってゴールへの道が開ける。これまで在籍したガンバ大阪でも川崎フロンターレでも、そうだった。いや、ゴールだけではない。勝ち星はもとより、タイトル争いの頂点まで連れていってくれる。

 人呼んで優勝請負人。たいていは優秀な指揮官の決まり文句だから、選手に使われるのはめずらしい。G大阪で三冠、川崎FでJ1連覇を経験。確かに阿部の行く先々に栄冠がついて回る。これはいったい、偶然か必然か。

 ベガルタ仙台とのJ1開幕戦は1-1のドローに終わった。貴重な同点ゴールはいかにも阿部らしい職人芸によるもの。右サイドを鋭くこじ開けた前田直輝のプルバック(マイナスの折り返し)をゴール左へていねいに流し込んだ。

 利き足は右だが、合わせたのは左足。どちらでもゴールの四隅に蹴り分けるシュートの達人として知られてきた。それもワンタッチで仕留めるのだから、相手のGKはお手上げである。反応してからでは遅いからだ。

 しかも、両足をゴルフのパターみたいに操ってボールを転がす。これがGKにとって最も取りにくい――とわかっているからだろう。何しろ体を倒さなければ手が出ない。ボールをかき出すにはひと手間かかる。つまり、ワンタッチとグラウンダーの合わせ技でセービングの時間を削り取っているわけだ。それを楽々と演じて見せる。

 難しいことを簡単に見せてしまうのが超一流のプロ。その見本のような一撃と言ってもいい。あれには本職の点取り屋も真っ青だろう。ボックス近辺でもスゴ腕の仕事人だが、ポジションを問わない汎用性の高さも「どこでもドア」的だ。