ルヴァンカップは第1節、J1、J2も第1節を終えて中断した。再開までの間、開幕戦を材料に『シーズン最初の一歩』で目を引いた各クラブの注目選手を紹介していく。連載第4回は王者、横浜F・マリノスの翼、遠藤渓太だ。

上写真=遠藤渓太は左サイドで圧倒的な存在感を示している(写真◎J.LEAGUE)

文◎北條 聡

リーグ随一の仕掛け

 この人の左からの仕掛けは、いまやJ1随一の破壊力――そう言っても差し支えあるまい。J1王者の横浜F・マリノスが誇る遠藤渓太だ。

 左のワイドオープンで1対1になったら、まず負けない。対面の守備者が誰だろうが十中八九、縦に持ち出して、相手GKと最終ラインの隙間にボールをねじ込んでいく。それも守備者がクリアしにくい速くて低いクロスだ。

 事実、昨季も守備者がクリアを誤って、オウンゴールを招くケースもあった。守備側が「嫌がる場所」を心得ている。

 そんな鋭い仕掛けを試合中に何度も繰り返すのだから、相手はたまったものではない。とりわけ、1対1にさらされる対面のサイドバックは頭も体も疲労困憊だろう。

 横浜FMは右にも強力な翼がある。

 昨季の年間MVPを受賞した仲川輝人だ。ただ今季は対戦相手の警戒が強まり、厳しいマークにさらされて、なかなか仕事をさせてもらえていない。そうした事情もあり、遠藤を擁する「左」が切り崩しのホットゾーンになっている。

 J1開幕戦もそうだ。対マリノス仕様の包囲網を敷いたガンバ大阪にがっちり守られ、1-2と敗れたが、遠藤だけはどこ吹く風。オナイウ阿道が仕留め損ねた後半早々の決定機を含め、この人の仕掛けから、たびたびゴールに迫った。

 仲川にも劣らぬ韋駄天だが、止まった状態からの突破も苦にしないところが何よりの強み。一瞬で対峙する守備者を置き去りにする。その加速力は特筆もの。まさに「分かっちゃいるけど止められない」というシロモノだろう。それこそ絶対的な武器と言ってもいい。

生え抜きにして注目の五輪世代

遠藤の切れ味鋭いドリブルは横浜FMの大きな武器だ(写真◎J.LEAGUE)

 だが、開幕前の立場は微妙なものだった。

 天皇杯王者のヴィッセル神戸と壮絶な撃ち合いを演じたFUJIゼロックス・スーパーカップではエリキが左ウイングで先発。ただ、一気に攻撃のギアが上がったのは遠藤をピッチに送り込んだ後半からだ。自らの値打ちを証明するかのように、神戸の右サイドを次々と切り裂いた。

 昨季はキャリアハイの7得点をマークしたものの、その立場は切り札の域を出なかった。前半戦はマルコス・ジュニオール、後半戦はマテウスの控えに回っている。それでも、ピッチに立つたびに相応の結果を残し、一介のウイングから脱皮しつつあることを強く印象づけた。

 今季はマテウスが期限付きを終えて名古屋グランパスに復帰。遠藤の定位置確保は既定路線かと思われたが、フタを開けてみればエリキのサブ。そこからベンチの評価を覆し、自らポジションをつかみ取った格好だ。どうぞ――と与えられたものではないところに価値がある。

 敵地に乗り込み、韓国王者の全北現代をねじ伏せたACL初戦の働きは圧巻の一語。左サイドで躍動し、全得点に絡んで堂々のマン・オブ・ザ・マッチに輝き、アンジェ・ポステコグルー監督もさすがに腹を決めたはずだ。

 アカデミー育ちの生え抜き。プロ5年目の東京五輪世代でもある。今季は何かと耳目を集めるだけに、その存在を知らしめる格好のチャンスだ。

 五輪のメダル、J1リーグ連覇、そして初のアジア(ACL)制覇へ。遠藤という翼を広げれば、どこまでも飛んでいける――かもしれない。

Profile
えんどう・けいた◎1997年11月22日生まれ、神奈川県横浜市出身。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、2016年に横浜FMに入団。初年度から23試合に出場し、昨季は33試合7得点を記録し、リーグ制覇に貢献した。代表ではU-20ワールドカップに出場。A代表にも昨年12月のE-1選手権でデビューしている東京五輪世代。175cm、66kg