ルヴァンカップは第1節、J1、J2も第1節を終えて中断されることになった。再開までの間、開幕戦を材料に『シーズン最初の一歩』で目を引いた各クラブの注目選手を紹介していく。連載第2回は湘南ベルマーレのMF鈴木冬一だ。

ナイフのように鋭いクロス

浦和の橋岡大樹と対峙する鈴木冬一(右/写真◎J.LEAGUE)

 いや、それだけではない。キック精度を高める伏線も張っていた。それが止めて蹴る――いや、「止まって蹴る」だ。クロスの担い手となる多くのサイドバックがなぜか止まらず蹴る。

 全速力で大外を回り、誰もが「しめた!」と思った瞬間、肝心のクロスがあさっての方向へ……そんな場面を何度目にしてきたことか。

 一番重要なのはサイドを深々とえぐることじゃない。クロスを味方に送り届けることだろう。ならば、止まって蹴ればいい。ほぼプレースキック状態だ。

 だから、狙いすましたクロスが飛んでいく。確かに守備側のスライドが遅れ、鈴木に的を絞る余裕はあったが、止めて蹴るまでの時間はごくわずか。すでにパスを受ける前から、クロスを繰り出すイメージを持っていたからだろう。

 鈴木のようなクロスの名手がいれば、守備側に何人でブロックをつくられてもチャンスの糸口がある。一発で分厚い人壁をスキップできてしまうからだ。

 こうした一芸を持つ人こそプロ。お金を払って見たくなる選手だろう。

 この先、あのナイフのように鋭いクロスを何度も拝める――そう思ったら、わくわく感が止まらない。湘南自体も攻撃面でグレードアップしているから、鈴木の見せ場も増えるはず。こりゃもうBMWスタジアムへ行くしかない。

Profile
ずずき・といち◎2000年5月30日生まれ、大阪府出身。セレッソ大阪の下部組織で育ち、2017年にはU-23C大阪でJ3の試合にも出場したレフティー。2018年4月に長崎科学総合大附高に入り、全国高校選手権でもプレーした。卒業後、2019年に湘南ベルマーレに入団。22試合に出場した(うち先発は7試合)。代表ではU-17W杯、U-20W杯に出場している。165cm、61kg