柏レイソルに加わったDF北爪健吾は今季、より安定した立場でJ1に挑戦する道もあった。だが、選んだのは新たな道。新天地で自身初のトップリーグに挑むことに決めた。その理由は「チャレンジ」だ。

上写真=やっとスタートラインと語った北爪。初のJ1挑戦に闘志を燃やす(写真◎BBM)

『柏から世界へ』のイメージがある

 北爪は昨季の横浜FCで、全試合フル出場のカルフィン・ヨン・ア・ピンに次ぐリーグ戦40試合に出場した。右サイドで走力とクロスを活かしてJ1昇格の大きな力となった。チームは2位に入り自動昇格を達成したが、その横浜FCで自身のJ1初挑戦という道は選ばなかった。自分たちの1つ上を行っていた、黄色いユニフォームに袖を通すことを決めたのだ。

「横浜の環境や選手はとても良くて充実していましたが、それ以上にチャレンジしたいと思いました」。実績を残し、自身の持ち味を理解している指揮官がいる、つまりは『安定した場所』を捨てて、新たな場所を選択した。

 柏のサポーターの熱さは、同じ県内のライバルであるジェフ千葉の一員として「ちばぎんカップ」を戦った頃から知っている。名将として知られるネルシーニョ監督は選手時代、自身と同じサイドバックだった。「このチームからはサイドバックとして、海外も含めてステップアップしている選手が多いというイメージがありました。何とかそれに僕も続けるように、ということも思い描きました」。

 ほかにも求めているものがある。北爪が今一番欲しいのは時間かもしれない。

「ジェフから横浜FCに行ったときも、最後のチャンスだと思って2年間頑張りました。大卒で期待されて(千葉に)入って、3年活躍できなかったという経験をしているので」。同期や年の近い選手には、引退する者も出てくる年齢だ。「サッカー界は厳しくて、そういう選手の思いも分かっています。だからこそ、自分が続けられるからには、より厳しい環境に身を置きたいと思っていたんです」。移籍を決断する、大きな理由があった。

 プロ6年目で、初めてJ1に挑戦する。「ここがゴールではなく、やっとスタートラインに立った感じ」だと、北爪は言う。専修大学で関東1部リーグを4連覇した同期、仲川輝人はJリーグの頂点に立ち、MVPを受賞した。同じ舞台にようやくたどり着いた27歳は、「何年もかけてスタメンを取ろうとは思っていません。すぐにピッチで自分の強みを出したい」と意気込む。

周囲に自分を認めさせる作業から始めることを考えれば、自分の時間を勝ち取るというのは、昨季よりも確実に困難であるはずだ。だが、「このタイミングでの移籍はどうなんだろう、と思っている人は多いと思うんですよ。出場機会に恵まれない可能性もあるけれど、それは自分次第」と、周囲の見方もリスクも承知して、こう続ける。

「この決断が本当に間違っていなかったと自分で思えるように、さらに周囲にそう思わせることが一番のモチベーションです」

 北爪は前だけを見つめている。

取材◎杉山 孝