新体制発表の場で、決意に満ちた表情を見せた。前貴之は横浜F・マリノスのサイドバックに求められる要素を兼ね備える。その万能性は、きっと常勝への道を歩き出したチームを支えることになるはずだ。

上写真=札幌時代の2012年以来のJ1挑戦となる前貴之(写真◎BBM)

マリノスのサッカーは面白い

 また一つ、成功例となるかもしれない。マリノスはまたしてもいい補強をした。前貴之は、マリノスが求めるサイドバック像に合致する選手と思われるからだ。

 マリノスのサイドバックは時にボランチのように攻撃に絡んでいくことを要求される。その意味で前は、うってつけの人材ではないだろうか。レノファ山口時代にも、機に臨み、時に応じてポジションをライン際から中央エリアへと移し、ゲームの組み立てに関与。実際、アンカーでのプレー経験もあり、その幅の広さは、マリノスのサイドバックを十分に担えると期待させる。

 本人も、その点を理解していた。

「レノファはマリノスとちょっと似ている部分もあって、僕も何回か内側に入ったりだとか、アンカーをやったりだとか、あったんですけど、やっぱりマリノスは周りのクオリティが高いので、そういう人たちと共有していく中で、自分の持ち味を発揮できればなと思います」

 昨季、マリノスのサイドバックは今オフに完全移籍を果たした和田拓也とティーラトン、松原健、広瀬陸斗、負傷により3月から長期離脱した高野遼の5人で担った。そのうち右サイドでもっとも多く先発した広瀬が、このオフに鹿島へと去っている。

 ACLを考えた場合、外国人枠の関係で左サイドバックのティーラトンが外れることも考えられる。そうなればサイドバックは実質3人で、左を主戦場とするのは高野のみとなる。和田も昨季は左で2試合先発しているが、層は十分ではないだろう。

 前は、右が主戦場であるものの、左もプレー経験がある。その万能性はチームにとって大きなプラスとなるはずだ。

「チームの足りないところを埋められるような選手は必要だと思うので、(役割を)与えられたときに与えられたポジションで良いプレーができるように、日ごろから常にいろんな人のポジションを見たりだとか、勉強しながらやっていきたい」

 あくまで謙虚に、しかし、しっかりと自分の未来を見据える。

「(マリノスのサッカーは)ずっと見ていました。僕のポジション、サイドバックでは中のポジションを取ったりだとかも、ほかのチームではやっていないことですし、守備でも前からいくというところで、本当に面白いサッカーをやっていた。魅力を感じていました。」

 昨季、マリノスは魅力的な攻撃サッカーでJ1王者なった。次に狙うはリーグ連覇、そして全冠。

「とにかく役割を果たして、早く順応できるようにと思っています」

 常勝への道を歩き出したチームの中で、前貴之は自身のタスクを全うすると誓った。