鹿島の安部裕葵が存在感を放った。スタートは右サイドにポジションを取るも、試合の状況に応じて左右、中央とポジションを変え、ゴールに迫った。足元のテクニックと的確な状況判断、チームメイトとの連係など、安部のすごみはいくつもあるが、この日はもう一つ、巧みな“技術”を示した。

上写真=89分に途中交代するまで、その能力を存分に示した安部(写真◎J.LEAGUE)

■2019年4月20日 J1リーグ第8節
鹿島 1-0 仙台
得点者:(鹿)犬飼智也

「力の逃がし方」と表現する技術

 この日も鹿島の背番号10は相手から激しくマークされ、たびたびピッチに倒れ込んだ。「元々、削られるキャラなので」と安部裕葵は冗談交じりに話すが、「それは覚悟しています。痛いのは好きではないけれど…」と、巧みにボールを扱う選手ならではの宿命を自覚している。

 象徴的なのは74分の場面。自陣でボールを拾った安部が攻撃につなげようと前線を見た瞬間、足元に強烈なスライディングタックルを浴びる。「危なかったから、よけましたよ。よけていなかったら、マジでヤバかった…」と、ケガを負う可能性も脳裏をよぎったという。

 それでも、ケガを未然に防ぐためのうまさが、安部にある。本人が「力の逃がし方」と表現する“技術”だ。実際にその場面では、右足にタックルを受けている。ただ、接触する直前に、わずかながら右足を引いてもいる。一時は接触の衝撃で苦悶に満ちた表情を浮かべたが、足首をひねったりして大ケガにつながることはなかった。

 また、同じようにチームメイトやサポーターをヒヤリとさせるようなシーンは、前半終了間際の43分にもあった。ハーフウェイライン付近でボールを受けると、ゴールへ向かってドリブルを開始。しかし、ペナルティーエリアの手前で足を滑らせ、体勢を崩して転倒した。

 両足がもつれていただけに、「ヒザをひねりそうになった」というが、その瞬間の咄嗟の判断によって、この場面でも大事に至らずに済んだ。「『ヤバい』と思って倒れました。倒れていなかったら、たぶんヒザをやっていましたね。倒れたので大丈夫でしたけれど、グッと踏ん張っていたら、たぶんヤバかった…」と振り返る。

それでも負傷交代で場内騒然

 この日、リーグ戦では第4節札幌戦(○3-1)以来、およそ1カ月ぶりの先発出場。今季初のフル出場も見えていた。その矢先の86分、ペナルティーエリア内で相手と交錯し、またもピッチに倒れ込んだ。そのまま起き上がることなく、担架で運ばれ、途中退場。安部の負傷交代に、スタジアムは騒然となった。一体、安部の身に何が起こったのか――。

 試合後、報道陣の前に現れた安部は苦笑いしながら、その状況を説明した。

「ここ(局部)を踏まれてしまいました。苦しくて、苦しくて…。でも、もう大丈夫です」

 不意を突かれた接触だっただけに防ぎきることができず、最後の最後で試合終了の笛をピッチ上で聞くことはできなかった。だが、「僕の出場時間はどうでもいいですよ。勝てばいいです」と淡々と話した。

 ただ、何度もピッチに倒れ込もうとも、内なる闘志は揺らがない。

「たとえ相手が足裏で(タックルに)来ようが、行かなければ行けないときはある」

 J1リーグ戦、AFCチャンピオンズリーグ、U-20ワールドカップ。安部はこれからも目の前の一戦一戦を戦い続ける。

取材◎小林康幸