※上写真=プロ初ゴールを決めた20歳の小田
写真◎J.LEAGUE PHOTOS

 試合が動いたのは後半早々の52分。永木亮太のCKに小田逸稀が頭で合わせ、鹿島が先制する。守備では、GKクォン・スンテの好セーブもあり、C大阪に得点を許さず完封。11月3日に行なわれるAFCチャンピオンズリーグ決勝第1戦に向け、弾みのつく勝利を得た。

■2018年10月31日 J1リーグ第31節
鹿島 1-0 C大阪
得点者:(鹿)小田逸稀

苦境を乗り越えて決めた初ゴール

【動画】鹿島が小田逸稀のJ1初ゴールでC大阪に勝利!(試合ハイライト)

 リーグ戦4試合目のスタメン出場となった小田逸稀が、J1初ゴールを挙げた。「狙い通り」と振り返ったヘディングシュートは相手GKのファンブルを誘い、ゴールラインを越えた。「シュートの後に副審を見たら旗が上がっていた。ゴールが決まって、暴れたいくらいの気持ちだったけれど、みんなが駆け寄ってきてくれたので、何もできなかったですね(笑)」

 小田は東福岡高校出身のプロ2年目。高校2年時にはインターハイと全国高校選手権の2冠を達成している。世代屈指の身体能力を誇るサイドバックとして、当時から空中戦の強さも群を抜いていた。「ヘディングが一番得意だったし、それを売りにしてプロに入った」

 だが、昨年鹿島の門を叩くと、プロの世界の洗礼を受ける。「プロに入って、一番それ(空中戦)が通用しなかった。FWの選手も競り方がうまいし、セットプレーも厳しかった」と、特長を生かせない苦境に陥った。

「簡単な世界ではないから」

 東福岡高校時代に森重潤也監督から与えられた一言が、小田の身にしみる。

「(森重監督も)もともとはそういう世界でやっているし、そういうことは言ってくださいましたね」(小田)

 Jリーグが開幕する前に、JSLなどでプレーした経験を持つ恩師の言葉の意味を痛感した。

 それでも、「鹿島アントラーズは日本のビッグクラブだし、それなりの覚悟を持っている」という小田には、逆境をはね返す力がある。「挫折を何回も乗り越えてきたという自負がある」と言うように、中学時代や高校時代にも壁にぶつかり、そのたびに乗り越えて、着実に成長してきた。プロ選手になっても、その姿勢は変わらない。

「(上達のために)とにかく数をこなすこと。(鈴木)優磨くんとかとも(練習で)競ったりするし、高いレベルでやっているから、そういう経験が生きてきているのではないかと思う。経験を増すごとに、自分の良さを練習でも出せるようになってきたし、試合でもヘディングで勝てるようになった。やはり経験が大事」と、言葉に自信がみなぎる。

 そして、この日の“ゴール”という結果により、あらためて「ヘディングは得意」と宣言する。身長は173センチと、それほど上背がある方ではないが、「相手より先に飛んで、滞空時間を長くし、空中での姿勢を保って、体を大きくすることを意識している。身長差があっても、(相手より)先に飛んでしまえば勝てる」と、自身が見いだした極意も口にする。

 鹿島は3日後に、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝戦を戦う。もちろん、「ACLにも出たい」と話しつつも、「Jリーグも大事」と、フル出場し、チームに勝利をもたらしたことに安堵する。「どの試合でもスタメンで出られたらいい。(今日)点を取れたことは、多少はアピールになったかもしれない」と、確かな手応えも得た。

 アジアの頂点を争う常勝軍団で、レギュラーの座をつかむために――。20歳のサイドバックは、さらなる成長を期す。

取材◎小林康幸