第103回の全国高校サッカー選手権大会が、きょう12月28日の開会式と開幕戦から幕を開ける。日本サッカー界の冬の風物詩で優勝争いとともに注目されるのが、各校に散らばる将来性豊かな選手たちのプレーだ。高校サッカーの現場で日々取材を続けているエキスパート2人が、全3回に分けて対談形式でニューヒーロー候補をピックアップ。今回は最終回の後編をお届けする。

上写真=川崎Fへの加入が内定している野田(左)と、高知の得点源として期待される門田(右)。どちらもチームのカギを握る存在だ(写真◎川端暁彦〈野田〉、森田将義〈門田〉)

[識者プロフィール]
川端暁彦(かわばた・あきひこ)/『エル・ゴラッソ』元編集長で、現在はフリーランスの編集者兼ライター。育成年代を中心に日本サッカー界を幅広く取材している。

森田将義(もりた・まさよし)/テレビ局の構成作家などを経て2012年からサッカーライターとして活動中。関西を拠点にジュニアから大学までの育成年代などをカバー。

※サッカーマガジン2025年2月号に掲載された記事を再構成

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平林、田所、野田、門田…一気に飛躍を遂げるのは?

――今大会のヒーロー候補は、まだまだたくさんいますね。

川端 前橋育英(群馬)のMF平林尊流(ひらばやし・たける)はドリブルでの仕掛けや配球が巧みで、キャプテンのMF石井陽(いしい・はる)はパスをさばけて、かつ戦える選手です。プレミアリーグEASTで得点王になったFWオノノジュ慶吏(けりー)の突破力と得点力が目立っていますが、2トップを組むFW佐藤耕太(さとう・こうた)も決定力があるし、ポストワークもできる。

森田 その前橋育英と1回戦で対戦する米子北のFW鈴木颯人(すずき・はやと)も良いですよ。ベスト4に入ったインターハイでひと皮むけた印象で、馬力があるので前線で体を張れるし、ゴールへの貪欲さも出てきました。

森田 鹿児島城西のFW大石脩斗(おおいし・しゅうと)は、まさに大迫勇也2世というストライカー。大きくて、速くて、パッと見ただけで別格という存在です。左サイドのMF野村颯馬(のむら・そうま)も推進力があるドリブラーで面白いですよ。

川端 久しぶりに選手権に帰ってきた帝京(東京B)も良い選手がそろっていますよ。U-18日本代表のDF田所莉旺(たどころ・りお)は高さと技術を併せ持っています。187センチと恵まれた体格を持っていて、しっかり蹴ることができる。

森田 1年生のときは最終ラインにいるボランチというイメージで、パスをさばくのは好きだけど、守備はあまり好きじゃないのかなと思っていました。でも本人に聞いたら「3年生になって戦う必要性を感じた」と話していて、ガツガツいけるようになったのが印象的です。

川端 キャプテンのMF砂押大翔(すなおし・はると)も欠かせない選手です。テクニックがありつつ球際にも強く、攻守に貢献できる。まずは開会式後の開幕戦でどんなプレーを見せるかですね。もう一つの東京都代表・堀越(東京A)は、昨年度のベスト4経験者が残っているのが強みで、DF森奏(もり・かなで)は182センチの長身でヘディングが強い。以前はFWでしたがコンバートされて、ディフェンスの軸になっています。

森田 川崎Fへの加入が内定している静岡学園(静岡)のDF野田裕人(のだ・ひろと)は、右サイドバックで攻撃の起点になれる選手です。自分で仕掛けてチャンスを作ったり、周りとの連係で崩すこともできます。今年度はケガでいない時期が長かったんですけどね。

川端 インターハイもケガ明けで、1試合おきに出場していました。試合中に落ち着きどころを作れる選手なので、ベストコンディションで臨めるかどうかがチームにとっても大きなポイントになりそうです。

森田 岡山学芸館(岡山)はFW太田修次郎(おおた・しゅうじろう)FW香西健心(こうざい・けんしん)という得点源2人が注目ですが、1年生のMF吉岡大和(よしおか・やまと)も良いですよ。もともと技術が優れていましたが、高校で守備が成長しました。ボランチでコンビを組むキャプテンのMF岡野錠司(おかの・じょうじ)もハードに戦える選手で、注目しています。

川端 初出場の東海大相模(神奈川)で注目しているのはMF長井隆之介(ながい・りゅうのすけ)です。ボールをピックアップしてつなぐアンカータイプのキャプテンで、周りがよく見えている。MF沖本陸(おきもと・りく)もテクニックがあり、インサイドや左ウイングで違いを見せます。

森田 夏のフェスティバルを取材したときに強く印象に残っているのが、高知(高知)のFW門田翔平(かどた・しょうへい)FW松田翔空(まつだ・とあ)です。門田はグイッとゴールに向かっていく力が昨年度より増して、松田はスピードがある。2人とも体が強くてボールも収まるので、簡単には止められないんですよ。2人だけでフィニッシュまで持ち込めるし、昨年度のインターハイでベスト8に入ったときのメンバーが残っているので、周りの選手の質も高いです。

川端 帝京大可児(岐阜)のFW加藤隆成(かとう・りゅうせい)は昨年もこの企画で名前を挙げましたが、ポジティブな意味で我が強いストライカーです。チームプレーの中で個性を出して、ゴールやアシストでチームを勝たせるプレーをする。MF松井空音(まつい・あまね)も運動量があって、攻守両面で働ける良い選手です。

森田 2列目のMF青木嘉宏(あおき・よしひろ)は、周りを生かしながら自分もゴールを決めるし、左サイドのMF明石望来(あかし・みらい)はキュンキュンのドリブラー。攻撃の駒がそろっています。

――ほかにも名前を挙げておきたい選手はいますか。

森田 愛工大名電(愛知)のFW杉本悠悟(すぎもと・ゆうご)という1年生に注目していて、大津の山下のような嗅覚がある一方で、強引な突破を見せるし、守備でも頑張れる。DF蒲地陽汰(かまち・はるた)MF蒲地壮汰(かまち・そうた)は双子で、兄の陽汰は戦えるセンターバック、弟の壮太はドリブラーで、プレーは全く似ていませんが(笑)、どちらもチームの中心です。阪南大高(大阪)のMF福本一太(ふくもと・いった)は、チームに欠かせない存在のキャプテンで、ボールを奪える、戦えるボランチです。

――昨年この企画で取り上げた名古屋(愛知)のMF原康介は、大会後に札幌への加入が決まり、2024年にJ1リーグでもデビューしました。

森田 現在だと、それが海外クラブの可能性もありますよね。

川端 実際に海外クラブのスカウトも見る可能性はあります。取材でカタールに行ったときに海外の記者と話していたら、「高校選手権をユーチューブで見たけど、すごい大会だな。どうしてあんなに盛り上がっているんだ?」と聞かれましたから。

森田 選手権の『非日常感』は選手を成長させますよね。

川端 あれが1年間ずっと続くと良くない面も出てくるでしょうけど、一種のお祭りですからね。選手たちにとっては特別な時間ですから、思い切り力を出し切ってほしいです!