高校年代の選手やチームの物語を紡ぐ、不定期連載の第1回。部員数が100人を超えることも珍しくない高校サッカーにおいて、全国大会のピッチに立てる選手はわずかだ。今回は、その夢はかなわなかったものの、裏方としてチームをサポートし、輝きを放った鳥取の高校生に迫る。

裏方としての素晴らしい能力

 インターハイが終わった後、石本は備品の管理を任されるようになった。「ずっと本気でやらなければいけない」との思いは変わらなかったが、一方で選手としての向上心は持ち続けていた。

「どこに何の備品があるか聞かれたら、すぐ答えられるようにはしていましたが、裏方としての気持ちは、一度リセットしていました。やっぱり、選手権の舞台に立ちたかったので。選手として練習に臨むため、裏方のことばかりにならないよう、バランスを取ってやっていたつもりです」

 裏方の仕事は、プレーに好影響をもたらした。Aチームがプリンスリーグ中国で戦うのに対し、石本がいるBチームが戦うのは一つ下のカテゴリーとなる県リーグ1部。それでも「『裏方をやりながらでも、試合で結果を出そうぜ』という良い雰囲気になり、一体感が出てきました。練習でも『Aチームを突き上げて、モチベーションを高めよう』と話しながら頑張っていた」と石本。一丸となって力を高めたチームは10月の県予選を突破し、10年連続15回目の高校選手権出場を決めた。

 石本は県予選の序盤に出場機会があったものの、決勝は登録メンバーから外れた。最後の選手権では、全国大会のピッチに立ちたい。選手権本大会は1チーム30人が大会に登録され、その中から20人が各試合の登録メンバーとなる。石本は大会登録メンバーに入り、試合出場を目指していたが、大会が近づいたある日、梶コーチから「一緒に出場メンバーのサポートをしてほしい」と告げられた。

 梶コーチは米子北高に赴任する前、大宮アルディージャで運営や広報を担当。プロ経験者から見ても、裏方として素晴らしい能力を持つ石本に、より多くの仕事をしてほしいと考えたが、その依頼は、選手権でプレーする可能性が限りなく低くなることを意味する。それでも本人は、悩みながらも期待に応えようとした。

「他の選手が任されていないことも任せていただき、『選手権でも、こういう立場で必要とされているんじゃないか』と思いました。試合に出たい気持ちもありましたが、やる以上は、本気でやらなければいけないので」

東輝明フィジカルコーチ(右)との打ち合わせ。パソコンやタブレットも器用に使いこなした(写真◎米子北高校)

 大会前に梶コーチが任せた仕事の一つが、初戦の2回戦で対戦する前年度優勝校、青森山田高(青森)のスカウティング映像の編集だった。石本は少し教えてもらっただけで作業を覚え、パソコンを使って必要なシーンを編集。各自のスマートフォンに映像を送って共有するなど、求められる作業を完璧にこなした。

 初戦が近づいて現地入りすると、作業はさらに増える。宿泊先への荷物の搬入、備品の管理、翌日の練習の準備、練習後の片付け、また翌日の準備。それでも石本はチームメイトに仕事を割り振りながら、自らも多くの仕事をこなす。初戦の前日には東輝明フィジカルコーチ、梶コーチ、石本の3人でミーティングを行ない、当日の動きを確認した。

 2020年1月2日、埼玉県のNACK5スタジアム大宮。12時5分のキックオフに向けて、メンバーを乗せたバスが10時に到着するのを前に、石本をはじめサポートスタッフは9時15分に会場入りして準備を始めた。