上写真=決勝は青森山田と流経大柏に決まった。卒業後、青森山田の檀崎竜孔(左)は札幌、流経大柏の関川郁万は鹿島に入団する(写真◎BBM)

 第97回全国高校サッカー選手権大会も準決勝を終え、いよいよ決勝を残すのみとなった。短期集中連載の第5回は、準決勝を終えて感じた傾向と、日本代表の関係について綴る。

日本代表の影響

 準決勝の第1試合、青森山田対尚志の58年ぶりという「東北勢対決(1960年度の遠野対秋田商)」は見ごたえがあった。特に「パスサッカー」を標榜する尚志が、厳しいプレスとコンパクトなラインを徹底する現代サッカーのトレンドを求める青森山田のディフェンスを崩すことができるのかに注目した。

 序盤は主導権争いが続いたが、26分に尚志が右サイドで得たFKからエース染野がニアへ走り込んでダイレクトで決め先制する。尚志がペースをつかむが、青森山田も徐々に盛り返し「お家芸」のロングスローで脅威を与える。準々決勝の矢板中央戦でも先制されながら徐々に圧力を強めて前半のうちに同点として、後半逆転した青森山田のしたたかさが漂った。

 尚志は耐えて1点のリードで前半を折り返すが、後半さらに圧力を強める青森山田がバイロンの強引なドリブルからのPK獲得と、CKからの192センチの三國ケネディエブスのヘッドで逆転に成功する。やはり矢板中央戦と同様な展開に終わるかに見えた。ところが、ここからの尚志の反撃が見事だった。

 68分に沼田からの縦パスを右サイドで受けた加瀬がトラップで相手DFをかわすとすかさずグラウンダーで折り返す。これを受けた染野はDFに囲まれGK飯田の飛び出しにも遭いながら、鋭い切り返しで3人を交わし無人のゴールに左足で蹴り込んだ。さらに、その7分後には左サイドの沼田のパスから染野がつなぎ、伊藤が巧みなキープから右の加瀬にクサビのパスを入れる。これを加瀬がダイレクトでペナルティエリア内へスルーパス、走り込んだ染野がこれもダイレクトでGKの脇を抜いてゴールへ流し込んだ。染野はハットトリックを達成するとともに3-2と再び逆転に成功した。

 これで尚志が勝利を引き寄せたかに見えたが、青森山田は黒田剛監督が切り札の小松を投入すると泥臭く同点ゴールを蹴り込んで期待に応えた。3-3で突入したPK戦では初めに三國が外して優位に立った尚志だが、3番手石井、4番手フォファナが外して初の決勝進出はならなかった。

 しかし、仲村監督が試合後に「尚志らしいつなぐサッカーができた。逃げすに戦ってくれた」と話したように、そのプレーにはうれしい驚きを感じさせてくれた。山田のサッカーは現在の高校生レベルではトップレベル。それはプレミアリーグEASTでJクラブのユースを相手に最後まで優勝を争ったことでも証明されている。しかし、それを見事な崩しで3点を奪ったのだ。ディフェンスに問題は残るが、攻撃は素晴らしい。ちょうど昨年のロシア・ワールドカップで日本代表がベルギーを相手に、パスをつないでチャンスを作り、鮮やかな複数ゴールを挙げながら、相手の空中戦とあまりに素早いカウンターに屈した試合を思い出させた。

青森山田はスキがない戦いぶりと檀崎を中心とした効率の良い攻撃で決勝に勝ち上がった(写真◎福地和男)

 山田のプレーは恐らくハリルホジッチ監督なら絶賛するだろう。激しく奪い、素早く攻める。セットプレーから得点し、PKを奪うことはハリルが口を酸っぱくして求めたもの。対して尚志のサッカーは西野監督が求めた「日本人の良さを出す」サッカーに近い。複数のダイレクトパスでボックス内を攻略する。技術と俊敏性と連係が生命線だ。

 これまでも、その時々で日本代表のプレースタイルが高校のチームに大きな影響を与えてきた。フィリップ・トルシエの時代には3バックで臨むチームが増え、ザッケローニの時代にはポゼッション志向のチームが増えた。そして現在は、それは世界のトレンドでもあるが、ハリルホジッチが推し進めたサッカーの影響を受けているチームが多いと感じる。 

もちろん青森山田や流経柏はハリルホジッチが就任する以前から現在のサッカーを志向していたし、尚志や帝京長岡も西野監督がロシアで指揮を執ってから今のスタイルを始めたわけではない。それでも、代表監督が推し進めれば、やってきたことに確信が持てるのではないだろうか。

どちらが良い、悪いということではないが、尚志や帝京長岡のようなチームの割合が少ないように思えるので、個人的にはもっと増えてくれればと感じている。

流経大柏は関川を中心とした堅い守備とハイプレス、攻撃ではセットプレーを武器に2年連続で決勝進出を果たした(写真◎近藤俊哉)