上写真=名門・浦和南は1回戦で敗退。かつてよりも各校の力の差は確実に無くなっている(写真◎佐藤博之)

 全国高校サッカー選手権大会・1回戦が終了し、すでにいくつもの名門校が大会を去った。長く大会を取材し続けている筆者が、歴史をひも解きながら今大会の初戦で見えた傾向を綴る短期連載。第1回は、『選手権経験』のある指揮官について。

文◎国吉好弘

選手権でプレーした指揮官に注目

 1回戦が終わり、30日、31日に登場したチームのうち、首都圏(東京、埼玉、神奈川)、東海(愛知、三重、岐阜)、京阪神(京都、大阪、兵庫)といったかつて優勝争いの主役だった地域の代表が早々と大会を去った。反対に秋田(秋田商)、新潟(帝京長岡)、富山(富山一)、石川(星稜)、福井(丸岡)、鳥取(米子北)、島根(立正大淞南)という、かつてサッカーにおいては後進と言われた日本海側のチームがそろって2回戦に進んだ。すでに言われて久しい感もあるとはいえ、日本全国の地域差はなくなり、どの地域からでも優勝チームが出る可能性がある時代になったことを再認識させられた。

 とりわけ目を引いたのは名門である浦和南、四日市中央工の敗退だった。かつて3度の選手権優勝を果たした浦和南は、その優勝のうちの2回に選手として貢献した野崎正治監督が6年前に赴任し、私立勢に押され気味だった県内の勢力図を塗り替えて17年ぶりに選手権の舞台へ導いた。しかし1回戦で優勝候補の一角である東福岡に0-4で敗れた。

 ただし、スコアが示すほどの完敗ではなく、立ち上がりには2度の決定機を逃し、相手のスーパーゴールと守備陣の連係ミスからの失点で自ら墓穴を掘った。夏のインターハイでも対戦し、この時はシュートを1本も打たせてもらえなず0-3と、文字通りの完敗だったことを思えば明らかな進歩の跡が見られた。

名門校同士の対戦となった四日市中央工対秋田商は、秋田商に軍配が上がった(写真◎福地和男)

一方、四中工は1995年度から指揮を執ってきた樋口士郎監督が今年度限りで退くということが決まっており、それをモチベーションとした選手たちの奮起が期待されたが、さらに「古豪」というべき秋田商の軍門に下り0-2で大会を後にした。

 樋口監督もかつて選手として四中工を初の決勝へ導いている。この時準決勝で下した相手が3連覇を狙った浦和南で、野崎監督が主力選手だった。さらに言えば、この時決勝戦で四中工と対戦して優勝したのが帝京、キャプテンでエースだったのは今回も日章学園を率いて大会に出場している早稲田一男監督である。

 首都圏開催となって2年目の第56回大会でしのぎを削った選手たちが、母校、あるいは所縁のある学校のチームを全国レベルに育て挙げて再び切磋琢磨している。そういう積み重ねが高校選手権の存在価値をいまだに維持させており、プロクラブの下部組織から漏れても再びトッププレーヤーへの道を切り開くことができる世界でも類を見ない育成の二重構造を形作っている。改めて言うまでもなく本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司といった選手たちもこの大会から巣立った。

左が早稲田一男(帝京)。写真は第56回高校選手権決勝、帝京5-0四日市中央工(@国立競技場/写真◎BBM)

 選手として選手権を経験していなくても素晴らしい指導者はたくさんいる。ただ経験者には自らが肌で感じたものを直接選手に伝えることができるアドバンテージがあることも確か。また、見ている側、応援する側にもシンパシーを感じさせる。そういった意味でも、今大会の出場校の中で選手権でプレーした経験を持つ、尚志の仲村浩二(習志野)、駒大高の大野祥司(武南)、神村学園の有村圭一郎(鹿児島実)、母校を率いる桐光学園の鈴木勝大、徳島市立の河野博幸ら40代の監督の今後に注目したい。