上写真=値千金のゴールを挙げた宇賀神。勝利の立役者となった(写真◎福地和男)

日本代表GKから奪ったスーパーゴール

「MVP賞がないあたりが、あいつの(運を)持っていないところ(笑)」

 試合後、浦和のキャプテンの柏木陽介はいたずらっぽく笑った。あいつとは、チームメイトの宇賀神友弥のことだ。決勝戦のMVPを選出するルヴァン杯や、年間最優秀選手を表彰するJリーグとは違い、天皇杯には個人賞が存在しない。だが、もし仮に天皇杯決勝のMVPがあるとしたら、今回の受賞者は決勝ゴールを決めた宇賀神で異論はないだろう。

 スタジアムに歓声とどよめきを生んだ豪快なボレーシュート。相手のクリアボールの落下点に走り込み、ダイレクトでボールの芯を捉えるという難易度の高いシュートだった。仙台のゴールマウスを守った日本代表GKシュミット・ダニエルは「準備次第では止めることができたかもしれないけど」と前置きしつつ、「スーパーゴールだと思う」と語った。

 当の本人も「ゴールの形は出来過ぎ」と苦笑するが、伏線は張られていた。

「仙台はゾーン(ディフェンス)で守備をしてくるので、セカンドボールがこぼれて来るという話をしていた。(セットプレーの)練習の中でもそういうシーンが何度もあって、そこではふかせてしまって入らなかったけど、前日練習の後にも(個人)練習をした。それが良い形で実を結んだのかなと思います」

 今シーズン途中の4月から浦和を率いるオリヴェイラ監督は、鹿島時代(07年~11年)もセットプレーの練習に多くの時間を割き、チームに勝負強さを植え付けてきた。浦和の選手の多くがオリヴェイラ監督就任以降のチームの変化を実感しており、宇賀神もそのうちの一人だ。「決勝で自分にあんなスーパーゴールが出るのも、監督が運を持っているから」と笑いながら、チームの成長に胸を張る。

「セットプレーのときにいち早くポジションを取ったり、細かいところの一人ひとりの意識が高くなっている。それは、準決勝からセットプレーで勝負を決めていることからも見て取れると思う。一人ひとりの責任感が強くなっているし、苦しい時間帯を感じ取れる選手も増えてきている。苦しい時間帯にどういうサッカーをしないといけないのか。そういった細かいところが成熟してきている。半年間だけでもこれだけ植え付けられるのが監督のすごさだと思うし、来シーズンも非常に楽しみです」

 天皇杯を制したことにより、来季はオリヴェイラ監督の下、2シーズンぶりにACL(アジア・チャンピオンズ・リーグ)に挑む。チームにACL出場権をもたらした宇賀神は、「今年1年間、ACLのないシーズンは物足りなかった。来シーズンはまたワクワクする戦いができる」と、早くも来季に胸を躍らせる。

 また、殊勲の背番号3は、今季限りで現役を引退する平川忠亮への思いも口にした。

「勝手にですけど、師弟関係というか。同じポジションで、ライバルとして、先輩として一緒にやってきたので、ヒラさんが引退するというのは自分にとって感慨深いものだった。最後はどうしても優勝してヒラさんを送り出してあげたいという気持ちを、僕は人一倍持っていたので、そういう気持ちがあのゴールにつながったと思う。あの時間帯に点を取って、しっかりと勝ち切る姿を見せられたことで、『自分の跡は宇賀神に任せてもいいな』と思ってもらえたんじゃないかなと思います」

 2010年に流通経済大から浦和に加入した宇賀神は、来季で入団10年目を迎える。浦和一筋17年間のキャリアを送った平川にはまだ及ばないが、クラブ生え抜きの“浦和の男”として、これからも左サイドを走り続ける。

取材◎多賀祐輔 写真◎福地和男、高原由佳