上写真=2010年大会以来、16年ぶりに世界の頂点に立ったスペイン代表(写真◎Getty Images)
EURO、パリ五輪、W杯を制覇
2026年、北中米ワールドカップ(W杯)で、優勝候補のアルゼンチンとフランスを破り、スペインは魅力的かつ質の高いサッカーを披露して頂点に立った。それから数日のうちに、多くの日本の友人やJリーグのクラブスタッフから「どうやってスペインはW杯、EURO(欧州選手権)、そしてパリ・オリンピックの王者に君臨することができたのか」と尋ねられた。
私なりにその考察を、『サッカーマガジン』の読者の皆様と共有したいと思う。少なからず日本サッカーと関わりを持つ一人のスペイン人が、日本サッカーの今後の発展に役立つと思われる要素を、あくまで個人的に抽出したと思って読んでもらえたら幸いだ。
まず第一に、 スペイン代表には日本の皆さんもよく知るFCバルセロナと同様に、明確なサッカー哲学とアイデンティティを築き上げてきたという前提がある。選手、コーチ、スタッフといった関係者全員が、このプレースタイルを深く信じているという事実があるのだ。当たり前だが、サッカーの試合では勝つこともあれば負けることもある。しかし、対戦相手に関わらず自分たちのサッカーを貫くことが、長期的な成功をもたらすと彼らは信じて疑わない。
あらゆる年代でこの哲学を実践し続けるためには、忍耐と強い信念、そして時間が必要だ。もちろん、勝利がない時期には相応の批判を浴びるが、スペインはそれを成し遂げた。2008年にEUROを制し、2010年のW杯で頂点に立った。続く2012年のEUROも勝ち取った。そこからしばらくはタイトルから遠ざかることになったものの、哲学とアイデンティティが揺らぐことはなかった。
シャビもイニエスタもプジョルやセルヒオ・ラモスが去っても、ピッチにはパスを繋ぎ、前進することを目指し、ある一つの局面において、どのように振る舞うべきかを理解する11人がピッチに立ち続けてきた。同じビジョンを持ち、スタイルを実践できること、そしてそれを信じ続けられることで、再びスペインは各大会で頂点に上り詰めたのは間違いない。
現在の代表選手たちは、子どもの頃からこのスタイルでプレーしてきた。彼らは2010年W杯で優勝した憧れの選手たちがこうしたスタイルでプレーする姿を見て育ち、同じ考え方のもとで幼い頃からプレーし、成長した。世界中で指導を行う優秀なコーチたちのおかげで、彼らは戦術的な選択肢や「オートマティズム(連係の自動化)」を完璧に理解しているのだ。だから新しい世代の選手がチームに加わっても、すぐに適応することができる。
スペインの選手は幼い頃(4、5歳)から、言わば『戦術教育』を受けている。試合の力学を理解し、様々な状況に適応し、その局面ごとにチームにとって何が最善かを判断する能力を身につけているわけだ。日本は子どもの頃、とくに幼い頃はまず基本技術を磨くと聞いているが、そのあたりはスペインとの大きな違いと言えるかもしれない。
そしてこれもスペインの特徴的な要素と言えるのだが、一見すると攻撃的なチームに見えるものの、実はチームの最優先事項は失点をしないことにある。ただし、他の多くのチームとは決定的な違いがそこにはある。それは、スペインが「ボールを保持すること」で守備を行っているという点だ。「ボールを持っていれば、相手はゴールを奪えない」という当たり前を実践しているのだ。決して引いて守っているわけではない。
高い位置でボールを失った直後にFWやMFが激しく本能的なプレスを実践するのを見たことがあるだろう。それによって相手のビルドアップを封じ込め、可能な限り素早くボールを奪い返すことで、再び長いポゼッション(ボール保持)の時間を生み出している。それが標準装備されているために、スペインは今大会で最高の守備力を誇った。スペインのサッカーは見ていて美しいと称されるが、フランスのようなワールドクラスの攻撃陣を封じる鍵となったのは、ボールを保持することで守るという根本的な考え方とそれを実践する能力だった。
スペインには、勝利を目指さずにプレーする、つまり引き分けでよしとするという考えはない。もっと言えば、ゴールを狙わずにプレーするという考えもない。その根底には、競争心があり、これはラテン系や地中海沿岸の気質の一部とも言えると思う。そしてスペイン人は「どう勝つか」にも強くこだわるのだ。
子どもたちは4、5歳の頃から勝利を目指して競い合い、その思いが日々の向上心につながり、勝利するという目標がトレーニングの強力なモチベーションになっている。敗戦後に泣き出す子どもの姿がよく見られるのも、それが理由。その悔しさが彼らをまた成長させ、次の試合に向けてさらに努力する原動力になる。
ボールを持っていれば、相手はゴールを奪えないと言ったが、そもそもサッカーは常にボールを中心に動く競技だ。ボールを粗末に扱わずに大切にすれば、ボールもその愛情に応えてくれるというわけだ。私が子どもの頃、初めてサッカーの練習に参加した際、コーチがシンプルながらもとても重要なことを教えをくれた。
「ボールを500ユーロ札だと思ってごらん。誰かにそのお札を奪われるままにしておくかい? もちろん、そんなことはしないよね! だから、ボールをそれほど価値のあるものだと常に考えなさい。全力で守り抜き、チームメイトを信頼する。たった一人でボールをキープするより、11人の選手でキープする方がずっと簡単なんだから」
少し詩的に聞こえるかもしれないが、これはスペインサッカーの根幹をなす考え方だ。ボールをコントロールし、チームメイトと美しい攻撃を組み立て、サッカーを楽しみながら勝つチームと、自陣のペナルティエリアに引きこもって守備に終始し、苦しみながらも負ける確率を減らし、なんとか勝利をもぎ取るチーム。もし選べるとしたら、どちらのチームを目指したいか。
スペインの選手たちは迷わずボールへの純粋な愛を持って、プレーするチームを選ぶ。果たしてスペインの年代別代表チームでの指導経験しかなかったルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、自国のプレーモデルとアイデンティティを誰よりも深く理解していた。そして彼が貫いたプレースタイルへの強いこだわりが、2026年ワールドカップにおけるスペインの成功の礎になった。今大会では他国のスーパースターたちが輝きを放つ一方で、最終的にはアイデンティティを実践し、チームプレーを重視したスペインが勝利を手にしたのだ。
それぞれの国にはスタイルがあって、スペインがすべて正しいと言いたいわけではない。なぜ今回、スペインが優勝できたのかを突き詰めていくと、そこにはこれらの理由があるということだ。2030年大会で、日本の皆さんをスペインに迎えられることが、私は本当に楽しみだ。われわれスペインはディフェンディングチャンピオンとして大会に臨むが、日本の皆さんも私たちと同じようにサッカーを心から楽しみ、この地でワールドカップ初優勝という悲願に邁進する姿が見られるように願っている。
文◎アンドレス・グティエレス
▼著者プロフィール/Andrés Gutiérrez◎スペイン・バルセロナ出身。選手経験や指導者の経験を持ち、バルセロナ自治大学でジャーナリズムを専攻。スペインのサッカー専門誌「ドンバロン」の記者として活動した後、執筆活動のかたわら、ブライアン・ヒル(ジローナ)、マルク・ギウ(チェルシー)、元徳島のベニャト・ラバイン監督のマネジメントも務めるなど、幅広い分野で活躍する