2023-24シーズンのWEリーグ第9節が3月9日に行なわれ、INAC神戸とサンフレッチェ広島レジーナが対戦した。チャンスの数ではI神戸が上回ったものの、S広島Rも堅い守備で対抗し、なかなか得点が生まれず。しかしスコアレスドローに終わるかと思われた後半アディショナルタイム、I神戸がPKを獲得。これが決勝点となり、開幕からの無敗と首位を守った。

上写真=なかなか得点が生まれなかった一戦。後半アディショナルタイムの決勝点でI神戸が劇的な勝利を収めた(写真◎森田将義)

■2024年1月7日 WEリーグ第9節(@ノエビアスタジアム神戸:観衆1,219人)
I神戸 1-0 S広島R
 得点=(I)田中美南

「後半は勝ちにシフトして挑んだ」

 試合のポイントになったのはサイドでの攻防だ。I神戸にはDF守屋都弥、MF北川ひかる、S広島RにはMF中嶋淑乃と、なでしこジャパンに選ばれている実力派のサイドプレイヤーが在籍するため、外からの攻撃が多い。システムも3-6-1同士でマッチアップする回数も多いため、S広島Rの中村伸監督は試合後に「両ワイドはマッチアップする形になったので、どう攻守両面で相手の背中を取れるか・取らせないかの勝負になってくると話してゲームに入りました」と明かした。

 互いにサイドの攻防を意識した結果、序盤から拮抗した展開が続く。「相手の攻撃が強いのだろうと予測していたのですが、それ以上に広島さんは守備が良かった」。ジョルディ・フェロン監督が振り返ったとおり、I神戸は流れの中からは見せ場を作れなかったが、リスタートからチャンスを作ると、13分に右CKからDF竹重杏歌理がヘディングシュート。14分には左CKのこぼれ球をMF成宮唯が狙うチャンスを作った。

「想定していたよりも相手の両ワイドに、前への推進力で上回られていた」と中村監督が語ったS広島Rも16分、左サイドで素早いスローインからFW髙橋美夕紀がゴールを狙ったが、枠を捉えることができず。それぞれ良い形はあったものの、スコアレスのまま前半を終えた。
 
「お互い少し様子を見ながら、という展開だったのかなという印象」(中村監督)という前半を終えて、I神戸が先に動いた。「ホームですし、首位に立ち続けるためには勝たなければいけないので、後半は勝ちにシフトして挑んだ」というフェロン監督が、後半開始からボランチのMF山本摩也に代えてFW髙瀬愛実を投入。トップ下からボランチに回った成宮がボールに触る回数を増やすことで、攻撃のリズムを作り始めた。
 
 続けて54分には「相手の疲れも出てくるだろうと想定していたので、縦に抜け出す彼女のプレーに期待した」(フェロン監督)というFW愛川陽菜もピッチへ。その愛川がサイドに流れることで、右サイドで2対1の状況を作り出して攻撃を活性化させていく。
 
 フレッシュな選手が入ったことで高い位置での守備も機能し、73分にはS広島Rのビルドアップが甘くなったところを髙瀬がスライディングで奪ったが、シュートは打てず。続く75分にもFKのこぼれ球を拾った愛川がシュートを放つも、S広島RのGK木稲瑠那にキャッチされた。
 
 攻撃のギアを上げてきたI神戸に対し、押し込まれる時間が長くなったS広島Rだが、中村監督が「このゲームで勝ち点を取るために何をしなければいけないのか、選手たちがピッチの中でしっかり理解しながら、じれずにつながりを持ち、しっかり声を掛け合って最後の最後まで戦い抜いてくれたゲームだった」と振り返ったように、DF呉屋絵理子を中心に粘り強く対応。引き気味になりはしたものの、失点の気配は漂わせない。

 しかし、引き分けに終わるかと思われた後半アディショナルタイム、I神戸が右サイドの高い位置でFKを獲得。北川がゴール前に入れたボールはS広島R守備陣にはね返されたが、こぼれ球に反応した北川がシュートを放つと、エリア内で相手のハンドを誘発してPKを獲得。これをFW田中美南がきっちり決めて(得点時間は90+3分)、1-0で勝利を収めた。

「ベンチから見ていると、はっきりしたPKには見えなかったのですが、それまで選手たちがよく頑張ってくれていたので、ウチにPKが生まれるような状況が作れたのかなと思います」

 フェロン監督は試合後に選手たちを称賛。楽とは言えない試合展開でも最後まで勝利をあきらめず戦い続けたI神戸が、開幕からの無敗を9に伸ばして首位を堅持した。

取材・写真◎森田将義