U-24日本代表は22日、U-24南アフリカ代表と大会初戦を戦い、見事に勝ち切った(1-0)。守備重視の相手を攻めあぐねる展開が続いたが、チームはハーフタイムにやるべきことを確認していたという。林遼平氏による短期集中連載『蹴球五輪雑記』の第2回は、重要な初戦で勝利をつかんだ2人の選手の『意志』について綴る。

上写真=久保建英(左)と田中碧。ゴールを目指す2人の意識が重なり合い、決勝点が生まれた(写真◎JMPA毛受亮介)

文◎林 遼平 写真◎JMPA毛受亮介

あの場面は絶対に出してくれると(久保)

「リスクゼロでは点は取れない」。

 南アフリカ戦のハーフタイム、選手、監督含めてそんな言葉が飛んでいたと言う。

 日本は立ち上がりから守備的な戦いを選択してきた南アフリカに苦戦を強いられた。緊張感のある初戦だったことも影響しているだろう。5-4-1のブロックを敷いて待ち構える相手に対して、想像したよりも慎重に試合に入った。

 確かにボールは回せていた。相手の出方を見ながらゆっくりとボールをつなぎ、インターセプトされる可能性のある縦パスは極力入れず、サイドを軸に攻撃を展開した。そういった一連の流れが決して悪かったとは言わない。だが、なかなかスピードも上がらなかったことで、相手としては対応しやすかったのも間違いない。

 こうなると、やはり“ゴールを奪うためにはリスクをかける”必要があった。慎重に戦う中で、いかに大胆なプレーをしていくか。積極性が求められていた。

 迎えた後半。リスクをかけて状況を打開しようとしていたのは、中盤の田中碧であり、前線の久保建英だった。

 特に田中は前半以上にポジションを高い位置に設定。「個人的には前半からやはりゴールに行きたかったというのが本音。自分がアンカーの位置に入っても人数が増えるだけなので、1列前でやろうかなというのは意識していた」。ボールを引き出しては縦パスでDFを食いつかせ、相手が中央を閉めてきたとなればサイドチェンジを駆使してマークをばらつかせた。

 結果的にその姿勢がゴールの起点となる。「自分が顔を上げたとき、誰かしらあそこに走ってほしいなと凄く感じていた」(田中)。71分、相手を中央に寄せるとサイドが空いた。田中がパスを送った先には久保が待っていた。

「田中選手はいつもポジティブにプレーしてくれるのでボールを持ったときはとりあえず呼んでみようという風にしている。あの場面は絶対に出してくれると思っていた」

 もともと3月の活動から一緒にプレーするようになった田中と久保の相性は総じてよかった。トレーニング中もよく会話しており、互いの話を聞いても信頼が伝わるような言葉が返ってきていた。だからこそ、久保もあの場面で田中からパスがくることを信じて疑わなかった。

 そこでボールを受けた久保は見事な仕掛けとシュートで決勝点を奪取。前半から積極的にシュートを狙っていた久保は、最後に相手のゴールをこじ開けた。

 失点を気にするよりも得点を奪いにリスクをかけた2人。今後も難しい試合は訪れるだろうが、慎重かつ大胆に、彼らのようなプレーが突破への鍵となってくるだろう。

著者プロフィール◎はやし・りょうへい/埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。その後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている