あの頃があるから今がある――。この連載では大学時代に大きく成長し、プロ入りを果たした選手たちを取り上げる。第5回は、早稲田大4年時にインカレ(全日本大学サッカー選手権大会)を制し、現在は大宮アルディージャでプレーするFW富山貴光だ。

上写真=名門の早稲田大で10番を背負った富山(写真◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子)

文◎杉園昌之 写真◎関東大学サッカー連盟/飯嶋玲子、J.LEAGUE

文句なしの大会MVP

 2013年1月6日、インカレ決勝で旧国立競技場を沸かせた一発は、大学サッカーファンの間で今も語り草となっている。

 1点リードで迎えた76分、早稲田大の富山貴光は福岡大のクリアミスに素早く反応し、迷うことなく左足を振り抜いた。ドライブ回転のかかったミドルシュートがGKの頭上を越えると、エンジのエースは背番号10のシャツを脱ぐなり、下に着込んでいた背番号4のユニフォーム姿でベンチへ一目散。仲間たちにもみくちゃにされながら、緑のビブスを着た選手を見つけて、抱きついた。

 ベンチ脇で富山を迎えていたのは、大会前に肺の塞栓症を患い、インカレに1試合も出場できなかった畑尾大翔である。その一部始終を見ていたレフェリーは少し間を置いてから富山にイエローカードを出したが、その口元はわずかに緩んでいた。早稲田大のイレブンは5年ぶり12度目の全国制覇を果たした後、4番をつけた主将への思いを誰もが口にした。

「畑尾のために優勝をプレゼントしたかった」

 まさに一丸となった勝利である。その中心にいたのが富山だった。ゴールでチームをけん引し、大会MVPも獲得。それでも、ヒーローは謙虚な姿勢を崩さなかった。

「守備陣が粘ってくれて、仲間がチャンスをつくってくれたから決めることができた得点。あれは感謝の一発です」

 魂のこもったスーパーゴールは、練習のたまもの。小学校の頃から両足で蹴るトレーニングを積み重ね、利き足の右よりも左の方がパワフルなシュートを打てるという。コースが見えた瞬間に足を振り抜く癖が、体に染み込んでいるのだ。