AFC U-23選手権で未勝利に終わり、森保一監督への逆風が強まっている。結果が出なければ批判を浴びるのは監督の宿命。23年前、サッカーマガジンに日本代表監督への批判が殺到した夜、指揮官は更迭された。

「加茂さんが解任される」

 編集部の電話が鳴り始めたのだ。それも4つの回線(※4人までなら同時に掛けても話し中にならない)が、一斉に。抗議電話であることは明らかで、おじけづいて出ることができなかった。1つの呼び出し音が止まっても、すぐに次の呼び出し音が鳴る。1時間半ほど鳴り続けただろうか。

 しばらくすると電話は鳴らなくなった。編集部に残って仕事をしていると、23時30分ごろに電話が。『こんな夜遅くに抗議電話かよ』と浮かない気分で出ると、カザフスタンで取材中の先輩記者からだった。

「加茂さんが解任される。表紙の文字を準備しておいて」

 現在は表紙の文字を変えるのもパソコンですぐにできるが、当時は数日前に、あらかじめ数パターンを準備しておかなければならなかった。勝利、引き分け、敗戦の3パターンはあったが、解任は用意されていなかったのだ。

カザフスタンと引き分け、厳しい表情で引き揚げる加茂監督。この4時間半後に更迭された(写真◎BBM)

 試合後、宿泊先のホテルで加茂監督に更迭が告げられていた。現地で記者会見が始まったのは、日本時間で日付が変わった0時半。岡田武史コーチが後任になることも併せて発表された。

 その後の展開はご存じの通りだ。岡田新監督の下、その後も日本は苦戦が続いたものの、何とかグループ2位を確保。イランとの第3代表決定戦に進み、『ジョホールバルの歓喜』でW杯初出場を果たしてハッピーエンドを迎える。

 あれから四半世紀近く。画面上で森保監督への批判が渦巻く現状を見ると、まだインターネットもSNSもなく、人々が『抗議電話』で心情を訴えていた20世紀末からの、時の流れを感じずにはいられない。

 森保監督が今後どうなるのかは分からない。ただ、誰が指揮を執るにせよ、地元でのオリンピックがハッピーエンドであってほしい。その思いは、サッカーを愛するすべての人々に共通するものであるはずだ。

文◎石倉利英 写真◎BBM