違和感はなかった。練習時間はあまりなかったと本人は試合を振り返ったが、攻撃でも守備でも、実にスムーズにプレーしてみせた。特に前半は出色の出来ばえ。柴崎岳とドイスボランチを組んだ橋本拳人は持ち前のボール奪取力に加え、スペースを埋める動きやカバーリングで守備を支え、攻撃面でも鋭い縦パスで何度もスイッチを入れた。パラグアイ戦で日本が挙げた2ゴールにも絡んでもいる。先発メンバーの中ではFC東京に所属する唯一のJリーガーだったが、代表常連の海外組の中に入っても、そのプレーは強い印象を残すものだった。

上写真=日本が挙げた2ゴールの起点となった橋本拳人(写真◎福地和男)

■2019年9月5日 キリンチャレンジカップ2019
 日本 2-0 パラグアイ
 得点=(日)大迫勇也、南野拓実

「もっともっと」と「まだまだ」と。

 いったい何度、同じ言葉を口にしただろうか。取材エリアでパラグアイ戦を振り返る橋本は「もっともっと」「まだまだ」という言葉を繰り返した。

「本当に強度の高い90分間でした。90分通して(自分の)パフォーマンスは出せなかったので、もっともっとやらなければいけないと、課題を感じました」

 コメントは、反省から始まった。3月のボリビア戦、6月のエルサルバドル戦に続く3度目の先発フル出場。ただ、森保ジャパンの主力組に入ってのプレーとなった今回は、これまでとは状況が異なる。それでも特に前半は素晴らしいプレーを披露したのだが、本人に満足感はない。目指す場所が、はるか高みにあるからだ。

「前半はうまく良いポジションを取りながらリスク管理しながらプレーできていましたけど、やっぱり疲労がたまってくるにつれて判断の質だったり、動きの質というのが落ちてきて、相手に押し込まれてしまった。そこはもっともっと90分間戦える体力、強度というのが必要だなと。ただ、90分間、Jリーグで感じることができない強度プレーすることができたので、それは自分にとって収穫だなと思います」

 収穫も、手応えもある。ただ、それ以上に「もっともっと」やらなければいけないとの思いが募ったという。

「相手も強豪でしたし、チームメイトも海外組でレベルの高いところでやっている人たちとプレーさせてもらいましたけど、付いていくのに必死でした。今は刺激的な日々を送れていますし、もっともっとやらなければいけないと思わせてくれる存在がたくさんいるので、すごく勉強になっています」

 貪欲に吸収しよう、成長しようというその姿勢が表れた印象的なプレーがある。一つは、相手ボールホルダーに対する素早いアプローチ。

「吉田麻也選手だったり、長友佑都選手は常に声をかけてくれますし、その指示の質が本当に高くて的確で。指示するタイミングだったり、内容というのも、今まであんまり聞いたことないような指示で、それをたくさんしてもらって。すごく成長できているなと感じました。
 やっぱり相手をつかみに行くタイミング(の指示が違う)。僕が見えていないところを、素早く的確に指示してくれますし、早めにポジションを取ることで相手からボールを奪えるというシーンも何度かあったので。そういう声かけというのは、自分ももっともっと前の選手にやっていかないといけないと思いました。吉田麻也選手の声掛けに助けられた部分がたくさんありました」

 むろん、相手との兼ね合いとチームコンセプトの違いもあるが、所属クラブでプレーするときよりも、ボールホルダーを狩りにいくタイミングが早い。本人によれば、それは新鮮な驚きを伴う、発見だった。

少しでも日本の力になりたいと思います(橋本)

 そしてもう一つ、橋本が存在感を示したのが、縦パスと持ち出しだ。

 攻撃面では意識して取り組んできたビルドアップに成長のあとが見えた。日本が生んだ2ゴールはいずれも橋本が攻撃のスイッチを入れる役割を担っている。

 1点目。左サイドから中央エリアに進出した中島翔哉に縦パスをつけ、そこから堂安律、長友佑都とつながって、最後は大迫勇也が鮮やかにゴールネットを揺らした。

 2点目。左サイドのスペースへドリブルで持ち上がり、相手を引き付けると2人の守備者の間に浮き球パスを通して中島につないだ。そこから逆サイドの酒井宏樹に展開し、最後はゴール前でフリーになった南野拓実が冷静に決めている。

 いずれも連動を重視する現チームの狙いが形となったゴール。その中で橋本はしっかりタスクを果たしたことになる。大きなアピールになったことは間違いないが、それでも本人は改善点について言及した。

「前線はすごく良いポジショニング取ってくれています。もっともっと(自分の)判断が早ければもっと良いパスがつけられる場面もたくさんあった。判断スピードだったり、判断の質というのは上げる必要があると感じました」

 自分の立ち位置と目指すべき場所までの距離が、代表活動に参加するたびに明確になる。その意味で森保ジャパンの主力組とプレーしたパラグアイ戦は極めて貴重だった。自信を得られたのでは? と問われると、こう答えている。

「半々というところですかね。やれた部分もあるし、まだまだと思わされる部分もたくさんあったので。ただ、刺激的な試合でしたし、自分にとって大きなゲームだったと思います」

 ボランチは橋本のほか、この日コンビを組んだ柴崎、途中出場した板倉滉、さらに遠藤航や今回は招集されていないが、守田英正や小林祐希らライバルが多いポジションだ。そして何より、日本を背負うレベルに達するために、現状に満足してはいられないとの思いが本人を突き動かしている。

「(W杯予選は)関東でやるときはいつも見に行きましたし、いつかはこの舞台でプレーしたいと思っていたので、そのメンバーに今、入れているのはうれしいことです。だから今まで(メンバーに)入りたいとか、上を目指したいと思っていた気持ちを、存分に出したいと思う。少しでも日本の力になりたい。出場機会があれば自分らしく泥臭く、戦いたいと思います」

 一筋縄ではいかないW杯予選は、10日のミャンマー戦(@ヤンゴン)から始まる。橋本はカタールで行なわれる本大会出場を目指す戦いの中で自身を磨き、成長し、何よりチームのために力になりたいと言った。

取材◎佐藤 景 写真◎福地和男

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