今回の女子ワールドカップ期間中、WEBサッカーマガジンでは日々野真理さんによる現地リポート「なでしこ観察日記リターンズ」をお届けしてきました。残念ながら最終回となる連載第7回は、オランダに敗れたラウンド16、いろいろと考えさせられたフランスーアメリカの模様など。悔しい幕切れになったけれど、なでしこの戦いは、これからも続きます!

上写真=オランダに敗れてラウンド16で姿を消した、なでしこジャパン。若きチームは東京五輪に向けて課題、収穫、経験、様々なものを得た(写真◎Getty Images)

[6月25日]
覚悟の眼差し

 ラウンド16、1-2でオランダに敗れた、なでしこジャパン。

 試合終了直後、泣き崩れる選手たちを支えていたのは、宇津木瑠美選手と阪口夢穂選手。この大会ではケガもあり、ピッチに立つことができなかった2人です。その悔しさは計り知れませんが、やはりその存在は大きく、若い選手たちにアドバイスをするなど、ピッチ外でチームをしっかり支えていていました。

 試合後の円陣が解かれると、熊谷紗希選手が泣きじゃくりながらも、インタビューボードの前に向かってくる。その姿があまりにもつらく、私自身も心を落ち着かせたくて、マイクを握り締め、空を見上げて待ちました。彼女が、どれだけこのW杯を楽しみにしていたのか。大会中も若いチームをまとめようと、どれだけ奔走したのか。その思いを聞いてきただけに…。

「勝ち進んでいく姿を、サッカー少女たちに見せたかった」

 その思いは叶いませんでしたが、必ずまた世界で勝つという、強い決意も感じさせてくれるインタビューでした。
 
 その後も、目を真っ赤に腫らした選手たちへのインタビューが続きました。私が取材した過去5大会でも敗退後のインタビューは多々ありましたが、泣き顔が続いたのは、初めてW杯に出場する選手が17人と、若いチームだったことも理由の一つでしょう。泣きじゃくりながらも『自分の言葉でしっかり語る』という気持ちでインタビューに応じようと準備する選手たちを見て、彼女たちが思いをしっかり話せる場であるように、ということだけを心掛けて臨みました。
 
「4年後に強くなって、またこの舞台に戻ってきたい。チームが苦しいときに、自分が何かを変えられる選手になりたい」。そう決意を語った三浦成美選手は、今大会中に著しく成長した選手の一人です。
 
「先輩たちが世界一になった歴史を、ただ歴史にするだけでなく、つなげていかなければいけない。世界一に返り咲けるよう、また一から努力したい」と語ったのは籾木結花選手。ケガもあってオランダ戦のみの出場となってしまいましたが、短い時間でも存在感をしっかり示しました。2人の未来に向けた覚悟を、言葉からも、眼差しの強さからも受け取ることができました。
 
 最後はスタンドから日本を称賛するようなコールも沸いたように、オランダ相手に素晴らしい内容の戦いを見せながらも、フランスのピッチを去ることになった、なでしこジャパン。これを勝利に結びつけるには、個人レベルのみならず、組織として、まだまだ勝つためにやるべきことがあったはずです。悔しいですが、また挑んでいくしかありません。

オランダ戦の先発メンバー。チーム全員が感じた悔しさが、東京五輪へのエネルギーになる(写真◎Getty Images)

 練習ごと、試合ごとに話し合いを重ね、大会期間中に一歩一歩、成長してきたチームです。大会が始まったときと比べたら、選手たちの『世界で勝ちたい』という心の底からの思い、覚悟は、大きく強まったに違いありません。これこそが、今大会で得た大きな財産になるのではないでしょうか。

 日本が負けたらすぐ帰国する予定でしたが、3日後にパリでフランスーアメリカの準々決勝があるので、取材してから帰ることにしました。いろいろな手続きと変更でバタバタ。はあ…。

[6月28日~29日]
女王アメリカの衝撃

 事実上の決勝とも言われたフランスーアメリカの当日。フランス全土を襲う熱波の影響で、パリの日中の気温は37度を超えました。日本から持参した温度計も『熱中症注意』のランプが点灯するほど。21時キックオフということもあり、強い日差しがないのはよかったですが、暑さの残る中での試合となりました。

フランスーアメリカ戦の当日、パリの凱旋門周辺の気温は37度!(写真◎日々野真理)

 両チームの入場前から、スタンドの迫力は文字通り決勝のような雰囲気、震えるほどでした。地元フランスのサポーターが多いのはもちろん、双眼鏡でスタンドをぐるり見渡してみると、アメリカのサポーターの多さに驚き。グループを1位で通過して、ここで開催国フランスとパリで戦う、ということを想定して現地を訪れた人も多いのでしょう。これも常勝国ならではの光景だなと感じます。

 試合は2-1でアメリカが勝利。優勝候補でもあったフランスは敗退し、同時に東京五輪への出場も逃すことになってしまいました。それでも、勇敢な戦いぶりにスタンドから温かい拍手が送られていたのが印象的でした。

 この日、一番驚いたのはアメリカが5バックで戦ったこと。攻め込むフランスに対してゴール前をしっかり固め、一定のラインからはゴールエリアにすら近づくことを許さない徹底ぶり。2倍のシュート数を記録するなど怒とうの攻めを見せるフランスに対し、徹底して『まずは守備から』のプランを崩さない戦いをしても、なおアメリカの攻撃力が際立つ戦いに感動すら覚えました。

 素晴らしい試合に胸がいっぱいになりながら向かった監督会見では当然、5バックについての質問が出ましたが、ジル・エリス監督は、「用意していた」とニヤリ。組み合わせが決まった時点で、準々決勝でフランスと対戦することは想定していたからこその準備なのでしょう。
 
 4年前の決勝でアメリカの“徹底した準備”の前に、日本が完敗したことを思い出しました(●2-5)。女王がそこまでする姿勢、世界で勝ち続けるチームの勝利への意識に直面し、『当たり前』のレベルの高さを感じました。

 胸に突き刺さるような強い衝撃を受けて、私自身のW杯取材は終了。日付は変わって6月29日、帰国の日になっていました。ホテルに戻ると、とてつもなく悔しい気持ちが沸き上がってきます。なでしこジャパンが、これからどんな道を歩んでいくのか。彼女たちが流した涙が未来への大きな力になっていくと信じ、追い続けていこうと心に誓いながら、スーツケースに1カ月分の荷物を詰め込みました。

 今大会最高の内容の試合で敗れ、大会を去ることになった、なでしこジャパン。もっとやれたという悔しさとともに帰国した選手たちが、これからどんな取り組みをしていくのか――。選手個々の努力のみならず、組織をあげて、より急ピッチで強化していかなければ、各国が急成長を遂げている世界の女子サッカーの中で勝者となることは、ますます難しくなってくることでしょう。

[7月2日]
これからも、よろしく!

 帰国しました! 女子W杯は日本時間の明日7月3日4時から準決勝が始まります。時差ボケを直さぬまま、決勝まで楽しみに見たいけど…あぁーっ、やっぱり悔しい!!!!

 今回の「なでしこ観察日記リターンズ」、お付き合いいただき、ありがとうございました。これからもサッカーマガジン本誌のコラム「日々是なでしこ」では、女子サッカー情報や、なでしこたちの素顔をご紹介していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
 
 次回の「なでしこ観察日記」では、優勝の様子を書けることを信じて…。
 
 頑張れ! なでしこジャパン!

 では、また! Merci!

大会マスコットのぬいぐるみ、取材許可証など、W杯の思い出の品々。なでしこの戦いを追い続ける決意を新たにした大会でした!(写真◎日々野真理)

文◎日々野真理 写真◎日々野真理、Getty Images