現在、ポーランドで行なわれているU-20ワールドカップ。世界中のタレントが集結し、20歳以下の世界一を目指して熱い戦いが繰り広げられている。日本と同じグループBで苦戦を強いられているメキシコの、将来を嘱望されるドリブラーを紹介する。

上写真=『メキシコのメッシ』とも呼ばれるライネス(右) 写真◎Getty Images

スペインに渡った18歳

 小柄で、左利きで、ドリブルを持ち味とするアタッカー――。その代表格と言えば、バルセロナ(スペイン)に所属するリオネル・メッシ(アルゼンチン)だろう。世界中に数多くいる同じスタイルの選手は、その国籍などを用いて『○○のメッシ』とたとえられることが多い。

 U-20ワールドカップを戦うメキシコにも、『メッシ』がいる。10番を背負うディエゴ・ライネスだ。

 6月に19歳となる新星は、すでにA代表でもプレーする。今年1月にはメキシコのクラブ・アメリカから、世界最高峰のスペインリーグ・ベティスへ移籍。国内リーグのみならず、UEFAヨーロッパリーグにも出場し、レンヌ(フランス)との試合で初ゴールを挙げた。

 ベティスでの最初のシーズンを終えると、ライネスはポーランドへ向かった。彼にとってU-20ワールドカップは、一躍スターダムにのし上がるための舞台ともなり得る。過去には“本家”のメッシをはじめ、ディエゴ・マラドーナやセルヒオ・アグエロ(ともにアルゼンチン)、ポール・ポグバ(フランス)ら、のちに世界のサッカーシーンをリードする選手が、大会MVPに輝いている。まさにスタープレーヤーへの登竜門となる大会だ。

 ところが、初戦から苦難が待ち受けていた。

 イタリア戦では、4-4-2システムの右サイドでプレー。ボールを受ければ、その左足を駆使してドリブルを仕掛けたが、一筋縄ではいかない。

 相手は組織的な守備を伝統とする“カテナチオの国”イタリアだ。ライネスがボールを持てば、2人、3人とその周囲のスペースを埋めていき、瞬く間に包囲網が敷かれた。イタリアの守備組織を前にほとんど見せ場を作れず、チームも1-2で初戦を落とした。

「負けることは好きではない」

 それから3日後の日本戦。メキシコは中盤のシステムをダイヤモンド型に変更し、ライネスはトップ下に入った。4-4-2システムで守る日本のボランチとセンターバックの間のスペースでボールを受け、前へ、前へとドリブルで進む。しかし、いまひとつキレがない。右サイドにポジションを移しても、局面を制圧するような存在感を放つことはできなかった。

 むしろ、時間が経つにつれ、どんどん孤立していく。周囲の選手たちも、ライネスを生かす術を模索しているように見えた。その間にメキシコのゴールネットだけが3度も揺れ、そのたびに背番号10は、日本が作る歓喜の輪を見つめた。同じピッチの上で起こっている状況を、静かに受け入れた。

「個人的に、負けることは好きではない。試合が終わった後はとてもつらかった。でも、ラウンド16に進める可能性が数字上で残されている以上、僕たちは次の試合のことを考えなくてはならないんだ」

 日本戦を終えて報道陣の前に現れたライネスは、そう気丈に言葉を紡いだ。メキシコは2連敗を喫し、グループBの最下位に沈むものの、3戦目のエクアドル戦(現地時間5月29日)に勝利すれば3位に浮上し、他のグループの最終結果が出るまで突破の可能性は残される。

 悔しさや失望といった負の感情と向き合い、すべてを成長の糧にして、ライネスはまた前に進んでいく。たとえ今回のU-20ワールドカップで、メッシやマラドーナがつかんだ栄誉を手にできなかったとしても、進化を止めることはないだろう。今はまだ、『メキシコのメッシ』なのかもしれないが、いつかその名がドリブラーの代名詞となる日が来るまで、その才能を伸ばし続ける。

文◎小林康幸