横浜FMが完勝し、4戦ぶりの白星。序盤からボールを支配し、チャンスを作った。7分にはゴール前のこぼれ球をマルコス・ジュニオールが流し込んで先制。後半も相手にペースをわたさず、M・ジュニオールと広瀬陸斗がゴールを挙げて、突き放した。この日の主役は2得点のブラジル人かもしれないが、ダメ押し点を挙げた23歳は特別な思いを持って埼玉スタジアムのピッチに立っていた。

上写真=広瀬は生まれ育った浦和の地で、J1初ゴールを挙げた(写真◎J.LEAGUE)

■2019年4月5日 J1リーグ第6節
浦和 0-3 横浜FM
得点:(横)マルコス・ジュニオール2、広瀬陸斗

父へ「やったぞ!」ポーズ

 2-0の70分、広瀬陸斗はとどめの一発を浦和のゴールネットに流し込んだが、派手に喜ぶことはなかった。今季、徳島から横浜FMへ加入したばかり。移籍後の初得点は、J1の記念すべきファーストゴールでもある。チームメイトにもみくちゃにされていたが、感情をこらえるように静かに自陣に戻っていく。

「うれしかったけれど、うーん、何と言えばいいんでしょうか。心の底から100%で喜べたかと言うと……」

 ぐっと言葉をのみ込んだ。あふれる思いがあったのだろう。浦和生まれの浦和育ち。父親は1990年代に浦和レッズで活躍した名選手の広瀬治。ゴールを決めたあと、メインスタンドの一点を見つめると、右拳を一度だけ突き上げた。

「両親が座っている場所は知っていたので、“やったぞ”って」

 生まれたときから父親は浦和でプレーしており、その息子が赤いユニフォームを着るのも自然な流れ。陸斗はジュニアユースに加入すると、トップチームを目指して必死にボールを蹴り続けた。ユースに進み、年代別日本代表にも選ばれた。それでも、トップチームへの昇格は見送られた。悔しかったが、ふてくされている暇はなかった。「いつか浦和と戦いたい。J1でプレーしたい」と心に誓い、茨の道を選ぶ。

 プロキャリアはJ2の水戸でスタート。ルーキーイヤーから出場機会をつかんで存在感を示し、翌年にはJ2の徳島へ。スペイン人のリカルド・ロドリゲス監督のもとで、スピードと運動量を生かしたプレーに磨きをかけ、サイドバックとして才能を開花させる。多くのシステムにも柔軟に対応し、サイドアタッカーとしても活躍。もうJ2の枠で収まる選手ではなかった。複数のポジションをこなす汎用性がポステコグルー監督の目にとまり、熱烈なオファーを受けて、J1の横浜FMへ完全移籍。J2時代は右サイドが主戦場だったものの、新天地では左サイドバックでプレーしている。いまやチームの主力だ。

 トリコロールのシャツに袖を通す18番は、古巣相手にも父親の忠告通り気負うことなく、普段通りのプレーを見せた。左サイドで躍動し、攻守両面で走りに走った。

「いまはマリノスの選手。マリノスのために全力を注ぎたい」

 大きく成長した“浦和っ子”の言葉は、なんとも頼もしかった。

取材◎杉園昌之