日本代表は、コロンビア戦から先発を『総入れ替え』してボリビア戦に臨んだ。結果、チームは格下相手に攻めあぐね、1-0の辛勝に終わっている。チーム発足から14試合目。すでに新戦力を試す段階にはないとの声もあるが、なぜ森保一監督はメンバーを総入れ替えしたのか。その意図を探る。

上写真=ボリビア戦で先発した香川真司は68分までプレー。南野拓実と交代した(写真◎毛受亮介)

■3月26日 キリンチャレンジカップ2019
 日本 1-0 ボリビア
 得点:(日)中島翔哉

試合途中からでも判断できる

 GKはシュミット・ダニエル。DFは右から西大伍、三浦弦太、畠中槙之輔、安西幸輝の4バック。MFはボランチに小林祐希と橋本拳人、2列目に右から宇佐美貴史、香川真司、乾貴士が並んだ。そして1トップのFWは鎌田大地。これがボリビア戦の先発メンバーだった。

 シュミットと三浦は森保ジャパン発足時から招集されてきた選手であり、乾もアジアカップに参加している。ただ、主軸を担ってきたかというと、そうではない。そしてこの3人以外はいずれも今回が森保ジャパン初招集の選手だった。

 指揮官は試合をスタートさせる時点で主軸を担ってきたメンバーに新顔を加えて融合を図り、その上で組み合わせを見極めるという手段を取らなかった。

 森保監督は試合後に次のように話している。

「コロンビア戦から選手を総入れ替えして、この試合に臨みましたが、日本代表として戦う責任の中で勝利を目指すということ、サポーターのみなさんや支えてくださる方々に勝利を届けるということは、誰が出ても変わらないと、選手にも伝えました。その中で経験の浅い選手もコロンビア戦、そしてこのボリビア戦でプレーしてもらって、プレー面で、ある程度の手応えをつかめたということは、総じて経験の浅い選手の評価として言えると思います。ただし、試合を決定づけるとか、試合の流れを変えていくところでは、まだまだ力をつけてほしい。その点も選手には先ほどロッカールームで伝えました」

 そもそも森保ジャパンでは攻撃面において選手個々の特徴を出すことを求めてきた。結果、組み合わせの妙による即興性を武器としてきた面がある。新顔が増えれば、必然的に機能不全に陥る可能性も高まっていく。今回、相手が守備的だった点を差し引いても、連係連動できずにチャンスをフイにする場面が散見した。

 先発総入れ替えに懐疑的な声が出るのは、活動機会が限られる代表チームでは、こうした機能不全が予想される起用法で初招集組を試すよりも、主軸の連係をさらに深めることに注力したほうがよかったと判断するからだろう。

 それでもあえて総入れ替えにトライした指揮官は、その意図について、試合後にはこんな言葉も残した。先発した2列目の3人を交代させ、中島翔哉、堂安律、南野拓実を投入した意図を問われたときだった。

「3人をそのまま入れ替えたということは、最終的にはそうでしたが、人数は2人ずつでしたし、いま力をつけている経験の浅い選手と、これまで代表を引っ張ってきてくれた経験のある選手が試合の中で少しでも融合する時間、いろんな感覚を共有する時間を持ってもらいつつ、最終的にはわれわれがこの試合に勝てればと思って交代のカードを使いました」

 試合の途中からでも選手を融合させ、その効果を測ることができるというのが指揮官のスタンス。現段階で連係の深化やチームの成熟よりもほかに重視しているものがある。深めるよりも広げることに重きを置いていた。

 その理由の一つとして考えられるのは、コパ・アメリカへの準備だろう。南米大陸外の招待国という立場とはいえ、日本にとって同大会は強豪国と真剣勝負ができる貴重な機会だ。当然、参加するにあたってベストなチームを編成するのが望ましいが、現実は極めて難しい。

今はレンガを横に積む時期

 まず、ヨーロッパ組をどこまで招集できるか分からない。大迫勇也の所属するブレーメンが早々と参加させないとの声明を出したように、シーズンオフであっても、1月のアジアカップに参加している選手たちをオフ返上で招集するのは困難だ。このタイミングで移籍し、チーム始動前に参加することが可能な選手もいるかもしれないが、それもクラブとの交渉次第。

 加えて、国内組の招集についても今回は配慮しなくてはならない。6月14日にブラジルで開幕するコパ・アメリカの期間中はJリーグが開催されており、現在グループステージを戦う川崎F、広島、鹿島、浦和が勝ち進めば、ACLのラウンド16の試合もある。さらにコパ・アメリカ直前の5月25日からはU-20ワールドカップがあり(~決勝は6月16日)、5月29日からはUー22のフランス遠征も予定されている(~6月16日/トゥーロン国際大会)。

 過去の例から見ても、公平性を考えてコパ・アメリカ期間に選手を招集できるのは各Jクラブから1名限りと、そんな条件が設けられるかもしれない。そこに所属クラブの承諾を取り付けた『限られた』海外組を加えることになる。代表チームを編成するのが、かなり難しい状況があるのだ。

 次回の代表活動は6月上旬の予定だが、そこではコパ・アメリカへ出場する選手たちが呼ばれることになるだろう。その意味では今回のシリーズが、より多くの選手を直接見て、試せる、コパ・アメリカ前の最後の機会だった。

 もちろん、日本が重視すべきは予選を勝ち抜いて2022年のカタール・ワールドカップに出場することであり、本大会で結果を出すことだ。したがってコパ・アメリカへの参加が決まった当初は、自国開催のために真剣勝負の機会が少ない東京五輪代表チームで臨むべきとの議論もあった。実際に、これまでよりも東京五輪世代やアンダーカテゴリーの選手を多く招集する可能性はあるが、昨今の代表チーム同士のマッチメークの難しさを考えても、A代表が強豪国と真剣勝負できるメリットは大きい。そもそも南米の国々がほぼフルメンバーで参加する中、アンダー世代がメインのチームで日本が参加するとも考えにくい。

 ケガによる離脱、クラブとの交渉が不調に終わるなどの不測の事態を考慮し、いくつもの条件が重なる中でもコパ・アメリカによりベターな形で参加できるように、今回のシリーズで多くの選手に代表を経験させておくことが重要だったのではないだろうか。

 さらに言えば、その先に見据える大いなる目標を達成するためにも、いまは急いてチームを深める段階ではなく、まだ選手層の拡充に努めるべきとの判断があるように思われる。

 かつて元日本代表監督の岡田武史氏はテレビのインタビューに答えて「右肩上がりでは強くならないもの。レンガを高く積み上げるだけでは、必ずどこかで崩れてしまう。レンガは、どこかで横に積まなければいけないときがある」と話したが、森保監督が多くの選手を招集し、試すことはまさに横にレンガを置く作業と映る。目指す場所がワールドカップのベスト8以上なら、過去のチーム編成を踏襲するだけではダメだろう。レンガを横にも置きつつ、より高く積みあげられる土台作りが必要だ。かつてない高い場所に到達することを目指しているとすれば、なおのこと。

 むろん、レンガを横に置き、土台を広げるばかりではなく、いずれ上に積み、高さを求める時期が来る。でもそれは指揮官にとって今ではなかった。コパ・アメリカへの準備。そして選手層の拡充の先にある最高到達点の更新。つまりはカタールW杯でベスト8以上の達成。先を見据えているからこそ、森保監督は迷いなく『総入れ替え』を実施できたのではないだろうか。 

取材◎佐藤 景 写真◎早浪章弘、毛受亮介