上写真=東京ヴェルディの主要株主である株式会社アカツキの代表取締役CEO塩田元規氏(写真◎TOKYO VERDY)

 クラブ創立50周年を迎えた東京ヴェルディと、モバイルゲームなどで有名な株式会社アカツキがパートナーシップを結んだ。そこでサッカーマガジンWEBでは株式会社アカツキの塩田元規CEOと梅本大介執行役員に話をうかがい、『クラブの未来をどのように描いているのか』についてインタビューを掲載してきた。今回はその最終回。テーマは「クラブの将来像とスタジアム」。数年後の東京ヴェルディの姿に思いを馳せつつ、読んでほしい。

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世界へ発信する場所として23区内にスタジアムがあれば(塩田CEO)

――いま、国内ではサッカー専用スタジアムを増やそうという動きが加速しています。当然、そうした流れは把握されていると思いますが、東京ヴェルディのスタジアムについてはどう考えていますか。

塩田CEO まず現在、東京ヴェルディがホームとして使用している味の素スタジアムは素晴らしい環境にあると思っています。ただ、その一方で、おっしゃることは認識しています。やはりサッカー専用スタジアムがホームになるというのは、Jリーグはもとより、クラブに関わる方々の思いとして存在するものですから。そしてもちろん、世界へ発信する場所として23区内にスタジアムがあることが望ましいとも思っています。それが渋谷区だったら、というのは意識するところでもあります。

――渋谷区代々木にスタジアムを建設するという話があります。

塩田CEO もちろん、「代々木でサッカーが見られたら素晴らしい」という話は以前からわれわれもしています。実は、そういう未来を想定して、渋谷のチームに人を派遣しています。われわれはいつの日か、そういうタイミングが来たら迅速に動けるように準備しています。そのためにも、クラブとして素晴らしい状態になっていることが重要ですし、最低限達成しなければいけないことを進めたいと思っています。

――人を派遣しているというのは、どういうことでしょうか。具体的に説明していただけますか。

梅本役員 『渋谷未来デザイン』という外郭団体を支援させていただいています。街が発展していくという未来を描く中で、スタジアムの建設や役割も考えています。そしてヴェルディとしても、長い目で将来を考えたときに、東京23区内にサッカー専用スタジアムを持ち、いずれそこを拠点にしたいということは、かねてより言ってきたことだと思います。ただ、そういう状況にありながらも具体的な候補地までありませんでした。われわれアカツキとしては、代々木にスタジアムを建設することに積極的に関与して、いずれヴェルディがプレーできる環境を作れたら、という考えを持っています。渋谷区のスタジアム構想については2016年くらいから、新聞などで報道されてきました。

――昨年秋にも、川淵三郎氏による「ヴェルディがホームに…」という発言が報道されました。

梅本役員 われわれがヴェルディのサポートを検討し始めたのが2017年なのですが、その段階においてもスタジアムに関しては考えていました。ただ、渋谷区代々木のスタジアム構想については具体的なことが何も決まっているわけではありませんでした。そこで本当に建設したらどうなるのか、と具体的なシナリオ作りや調査を開始したんです。そして調査している中で、2018年の4月に『渋谷未来デザイン』が立ち上がることとなり、具体的に今後の検討チームを作ることになったので、僕らはそれまでの検討結果を持って参画し、お手伝いしてきました。それが去年の秋頃にプロジェクトチームとして表に出たということです。
 実際に、われわれがヴェルディをサポートするかしないかまだ分からない状態のときから渋谷にスタジアムを建設して、ヴェルディに使用してほしいという話をしていました。もちろん、ヴェルディが使用するのか、FC東京なのか、東京ユナイテッドなのか、もしかしたら町田ゼルビアなのか、あるいは別のクラブが立ち上がるのか分からないですが、渋谷にサッカー専用スタジアムができたら、それは日本にとって絶対に素晴らしいものになると考えていたので、あの場所に建設することをお手伝いができるなら、積極的に関わっていきたいと思っています。

――そしてヴェルディが使用するようになれば、なお素晴らしいと。

梅本役員 ヴェルディにとってもビジネス上で良い点がたくさんあると思います。世界に何かを発信するときにも、東京のど真ん中、渋谷駅から徒歩10分程度の場所にあるのは大きな利点がある。渋谷という街の中にスタジアムがあることは、素晴らしいと思いませんか? そんな場所から強いヴェルディが発信し、アジアや世界の人たちが東京に旅行に来たときには、まず渋谷のスクランブル交差点で写真を撮って、その後にスタジアムに行くという流れを作れたら、本当に素晴らしい。

――日本のカンプノウということですね(連載第1回で観光資源としてFCバルセロナのホームスタジアムに言及したことを受けて)。確認ですが、正式にヴェルディにサポートしたいという思いは2017年からお持ちだったのですか。

梅本役員 そうですね。2017年にまずスポンサーになるところから関係がスタートしました。そこから継続していた話が、一歩進んで「一緒にやりましょう」とお声掛けいただきました。2018年シーズンからは練習着のスポンサーとなり、事業面でサポートさせてほしいという話をわれわれの方からもさせてもらいました。そしてヴェルディの方々もアカツキの持っているノウハウを必要だと判断されて、今回、主要株主として事業面を手伝うことになりました。
 ユニフォームスポンサーの話について言えば、「スポンサーに」という話があったときに、われわれは今後、しっかりクラブをサポートしていきたいと考えていたので、ぜひという理由があります。ファン・サポーターの皆さま、既存のスポンサーの皆さま、株主の皆さま、すべてのステークホルダーに対して、「われわれはヴェルディを支援していきます」という意思表示でした。

株式会社アカツキ 代表取締役CEO
塩田元規
1983年 島根県生まれ。横浜国立大学電子情報工学科を経て、一橋大学大学院MBAコース卒業。 株式会社ディー・エヌ・エー新卒入社、アフィリエイト営業マネージャー、 広告事業本部ディレクターを経て退職。2010年6月にアカツキを創業。

より大きな化学反応を起こしたい(梅本役員)

――先ほど、スタジアムに関する話の中で、将来、代々木のスタジアムを使用するタイミングが来るときには「クラブとして素晴らしい状態になっていたい」という発言がありました。また、今回のインタビュー冒頭にはヴェルディの黄金時代にも触れられています(連載第1回)。お二人とも、ヴェルディの黄金時代を見てきたことが、今回のプロジェクトに携わる上で、大きく影響しているのですね。

梅本役員 僕はそもそも心の中ではずっと読売クラブのファンだったんです。心の中と言ったのは、僕の子ども頃、読売クラブはとても強くて、とてもかっこいいから、アンチ巨人みたいな感じで、距離を取ったからです(笑)、日産(自動車)が好きだと言ってみたり。

塩田CEO わかる、わかる(笑)。当時はそういう空気がありましたよ。

梅本役員 だから、木村和司さんが好きだと一緒にサッカーをやっていた仲間には言っていましたし。実際に木村さんは子どもの頃のアイドルなんですが、一方で読売クラブの選手たちも好きでした。

塩田CEO だからJリーグ開幕後も、あえてライバルのマリノスを応援したりとか。あの頃は確かにそういう空気があって、強いヴェルディは素直に応援できないというような(苦笑)。結局、それほどまでに強かったということなんですよね。

梅本役員 それでJリーグが開幕して、今度はマリノス対ヴェルディに人が集まったとなると、いや、やっぱり古河電工だなと(笑)。リティ(リトバルスキー)がいるし、ジェフユナイテッド市原(現千葉/ジェフユナイテッドの前身が古河電工サッカー部)がいいと。Jリーグが始まったときはジェフファンを名乗っていました。でも結局、心の中ではずっと読売クラブが一番なんですよ。かっこいいと思ったあの瞬間から、変わらないんです。やっぱりヴェルディなんですよね。

塩田CEO 先ほども言いましたが(連載第1回)、子どもの頃の印象は鮮烈に残っていますよね。

――すべてがつながって今があるのですね。そういう黄金時代の復活を目指していく中で、具体的にどういう時間軸を考えていますか。チームの成績も含め、「こういう形にしたい」と、サポーターに対して話せることはありますか。

梅本役員 まず大前提として、われわれ、サッカー界の外の人間が選手強化の部分に口を出すべきではないと思っています。ですから、先ほどもお話しした通り、まずは事業を強くして、チームを強化できる体制を作りたい。それがわれわれのできるサポートの形だと思っています。ただ、思いとしては、昨年はプレーオフで負けてしまいましたが、まずはJ1に上がることが重要だと考えています。そしてエレベータークラブにならずにしっかりJ1にとどまる。そういう状態を、3年くらいの時間軸の中でしっかり作っていくことが重要だと思います。これらはアカツキが関わるから、というよりヴェルディが継続的にやってきた中で達成すべきことだと認識しています。
 そしてわれわれの仕事の一つの目安となるのは、観客動員数の増加です。味の素スタジアムに2万5千人くらいのお客さんを呼べる状態にする。これも3年くらいの時間軸の中で達成したい。そうしなければ、10年の時間軸でクラブワールドカップでFCバルセロナに勝って、渋谷の交差点で緑色のものを身にまとった人たちがハイタッチするなんて状況は訪れませんから。
 そういう未来から逆算していくと、いま話した3年、10年くらいの時間軸で達成していきたい。そしてその先さらに5年後には代々木に3万人のキャパのスタジアムが完成していて、ヴェルディのシーズンチケットがほとんど売れている状態にしたい。これらは実現できると思って進んでいきたいと思っています。

株式会社アカツキ 執行役員 経営企画部部長兼事業開発部部長
梅本 大介
1977年 東京都生まれ。関西学院大学卒業後、2002年ソニー株式会社入社。株式会社ディー・エヌ・エーを経て経営コンサルタントとして独立。2017年にアカツキに入社。

サポーターの方々の器の大きさが心強い(塩田CEO)

――すでにクラブとの連携は始まっていると思いますが、実際にスポーツクラブに関わってみて、ポジティブな発見や、あるいは想像とは異なり落胆した部分はありますか。

塩田CEO このプロジェクトのベースになる人材面については、とても素晴らしいと感じています。それはうれしい発見と言えるかもしれません。日々、われわれも勉強になりますし、会話の噛み合わせという点でとてもスムーズだと感じます。だからこれから同じ方向に進んで行けると実感しているんです。このベースになるポジティブな人材というのは、ファン・サポーターの方々も含んでいます。

――どういうことでしょう?

塩田CEO これまでヴェルディにはいろいろな時代がありました。その中でファン・サポーターの方々は、ずっと変わらずに支えてくださっている。良いときだけじゃなくて苦しいときを一緒に体験してくださっているというのは、本当に素晴らしいことです。熱いものを持った方々が、こんなにもたくさんいらっしゃる。そのことは、ヴェルディに関わる中で一番の発見でしたし、喜びでした。
 そして、ファン・サポーターの方々はこれから一緒にヴェルディを盛り上げたいと考えてくれていることもうれしかった。たとえばある世界に飛び込むときに、新しいファンにとっては既存のファンの中に入っていくのは不安なものです。その点、ヴェルディのファン・サポーターの方は、新しいファンを受け入れる度量や器がある。われわれからすると、この点はとても心強いし、これからファンの方々と観客動員数を増やしていくというプロジェクトを進めていくにあたっても、大きなプラスだと思います。
 新しいものを受け入れることができて、かつ苦しいときを過ごしてきた経験がある。これから一緒に10年、20年と世界一のクラブになる旅ができるという感覚を持てたことは、われわれにとってはとても大きいし、うれしいことでした。

梅本役員 ビジネスセクションの方々もそうなんですけど、関わる方たちの熱量は本当にすごいと感じています。皆さんが「超」が付くほどのハードワーカーですし、ヴェルディやサッカーに強い思い入れを持っている。そういうものがあるからこそ、苦しい時代もヴェルディは生き残ってきたのだと感じます。実際、一時は倒産しかけた会社が16億の売り上げを立てるところまで成長してきたわけじゃないですか。それはいま関わられている皆さんがものすごい熱量を持っていたからこそですし、とても優秀だったからです。そこに別の知見を入れることで、今後は乗数的にパワーが増していくと考えています。ゲームの世界やエンターテインメントの世界のビジネスを通じて得たわれわれの知見を活用し、より大きな化学反応を起こしたいと思っています。

塩田CEO もうすでに起きているとも感じています。ぜひ、一緒に旅に出かけましょう。ワクワクする旅になることをお約束します。

取材◎佐藤景 写真◎榎本郁也 

◆株式会社アカツキ 
 モバイルゲーム事業、リアルな体験を届けるライブエクスペリエンス事業を中心とする企業。eスポーツにも積極的でFCバルセロナやアヤックス、ガラタサライ、東京Vなどが参加する「LPE」も設立・運営している。2010年6月に創業。資本金:27億38百万円(2018年9月末時点)、代表取締役CEO:塩田元規