上写真=遠藤は負傷によりカタールとの決勝に出られなかった(写真◎福地和男)

 今大会、ボランチとして存在感を示した遠藤航は、負傷により決勝の舞台に上がることができなかった。初めてA代表の主力として公式大会を戦った充実感よりも、胸に残ったのは優勝を逃した悔しさと決勝に出られなかったことに対する自責の念だった。

ケガをしたのは何か自分に問題がある

 遠藤航は準決勝のイラン戦で左足太腿裏を負傷し、カタールとの決勝戦を欠場することになった。再三にわたり、ボランチがつり出され、空けたスペースを使われた前半の戦いぶりをベンチから見ていて、本人も歯がゆい思いを抱いていたのだろう。後半が始まってしばらくすると、ベンチ前で遠藤航と森保一監督が身振り手振りを交えて話していた。まだ日本に南野拓実の追撃ゴールが生まれる前のこと。いったい何を話していたのか。試合後に聞いた。

「ハーフタイムにトミ(冨安健洋)とかと僕が話していたので、何を話していたかっていうところを(聞かれて)」

 内容は相手の攻撃陣に対する守り方についてだったという。

「前の選手(アリ)とシャドーの選手(アフィーフ)がうまくローテーションしながら裏に抜ける選手、足元に下りてくる選手、そこへ縦(パス)をうまく入れられていたので、どっちかというとシャドーが抜けてくるのに対しては、CBに受け渡せればよかったですし、ちょっと流れた選手に対してボランチが付いていきすぎて真ん中を空けちゃうシーンが何回かあって。そこは少しずつ修正はできていたと思うし、ハーフタイムもそのへんについて話をしたら、ボランチの選手は分かってたので、後半はうまくやっていたと思いますけど」

 ベンチから見えた事象について、ピッチで戦う選手に伝えていた。つまりはベンチでも戦っていた。指揮官との会話は、このときの内容を確認していたのだという。カタールの前線の2人、トップのアリとシャドー気味に動くアフィーフは、機に応じてポジションを入れ替えながらボランチの3人とともに中盤の中央でエリアで数的優位な状況を作り出した。日本からすれば、アンカーのマディボか、シャドー役となる選手のどちらかが終始、フリーな状態。結局、誰がマークに付くのか決めかねているうちに、アフィーフに起点を作られて2点を決められた。

 遠藤は、そのことが残念でならなかった。

「大会を通して自分自身としては、すごく充実はしていて、チームとしてもしっかり戦えていたし、我慢強く粘り強く、うまくいかないときもしっかり戦えていた。結果も出ていたので、よかったと思う。ただやっぱり決勝に関して言えば、最初に失点してしまった。それで少し難しい展開になって、できれば2点目も与えたくなかった」

 柴崎岳と遠藤のコンビはバランスが良く、とりわけイラン戦はこのドイスボランチの距離感が絶妙で攻守に躍動した。配球もプレスもセカンドボールの回収も、すべてが狙い通りと思えるほどの出色の出来映え。だから、決勝の遠藤不在は悔やまれた。

 自分だったら、どうしたか。自分がピッチにいたら何ができたかーー。本人は大一番で何もできなかった自分を責めるように言った。

「やっぱりチームとして、まだまだというところを思い知らされた大会だと思うし、すべてうまくはいかないということがよかったと、後々思えるようにしていくことが大事だと思う。これからまだまだ成長していけるチームだと思うし、個人としてもまだまだやるべきことはたくさんある。コンディションはよかったけど、やっぱりケガをしてしまうというのは何か自分に問題もあると思うので、しっかりケガを直してまた、この場に戻ってこられるように頑張りたいです」

 ロシア・ワールドカップでチームの躍進を称えられても、出番なく終わったことについては悔しい思いを胸に刻んだ。大会後に成長を期して環境を変え、このたびのアジアカップでついにA代表で主力としてプレーする機会を得るに至った。だが、再び悔しい経験を胸に刻むことになった。今度は『出られる自分が、出られない』という痛み。

「この経験を忘れずにこれからまたやっていかなければいけないと思うし、ロシア(W杯)のときもそうでしたけど、そうやって悔しい思いがあった中で、自分は少し環境を変えて、少しずつ成長できていると思うので、続けてやっていきたい」

 遠藤航はロシアW杯の悔しさを糧に成長し、アジアカップに臨んだ。そしてまた、新たな糧を得ることになった。

 次に代表のピッチで目にする遠藤はきっと、今大会よりもさらにたくましくなっている。

取材◎佐藤 景 写真◎福地和男